妊娠がわかり、初めて真剣に考える職場復帰後のキャリア。会社の制度が充実しているか、夫の理解はあるか、親や親戚のサポートが得られるかなど、人によって子育て環境が多様な今、キャリア観もさまざまだ。
このシリーズでは、それぞれ異なる環境に置かれた妊婦たちに職場復帰後の働き方についてインタビュー。初回となる今回は、大手企業の法務部で働く狩野さん(仮名: 29歳)に話を聞いた。今いる会社で出世コースを歩んでいきたいと考えていた彼女は現在、育休を3年取得しようと計画しているらしい。その本意とは?
留学決定後にわかった妊娠がキャリアの転機に
――妊娠がわかったときはどんな気持ちでしたか。
もちろんうれしかったです。しかし一方で、会社の制度で海外留学に行くことが決まっていたので「自分のキャリア、どうしよう」という気持ちもよぎりました。実際、会社に妊娠を報告したら、留学の話はなくなってしまったので。
一方で、留学に行かないとなったときに、ほっとした自分もいました。もちろんプレッシャーがあったこともありますが、今のキャリア観で仕事を続けていいのかなっていう思いがあったからです。妊娠したことで、キャリアをあらためて見直すタイミングができたので、おなかの子には本当に感謝しています。
――キャリアに対してはこれまでに悩みを抱えていたのですか。
法務部で働いているのですが、上の代と下の代は弁護士資格を持っている人が多いんですね。私は資格を持っているわけではないので、肩身が狭いなぁと感じていたし、この環境でキャリアアップを目指せるのだろうかという不安も抱えていました。
――そこでなぜ、育休を3年取得しようと考えたのですか。
社内の制度として、入社7年目までしか留学の支援をしてくれないのですが、私は既に7年目。職場復帰後に留学することはできなくなりました。これまでは、部署内で偉くなることしか考えてなかったので、留学できなければ武器が何もないなって……。そこで、他の部署に異動するという選択肢もあるなと考えました。しかし今の部署は専門職として採用されているので、部署間の異動はとても難しい。となると、他の部署に異動できるような資格や経験が必要だなと。
そのためには時間が欲しいと思ったんです。そこで、3年間の育休取得を申し出てみようと決めました。短縮はできるので、実際には3年より早く切り上げて復帰するかもしれませんが。
――育休を自己研さんの時間にあてようと考えたわけですね。
そうですね。それと、子どもが最低2人以上欲しいという理由もあります。2人目をうむのであれば、2回に分けて産休・育休を取得するよりも、一気にがつんと休んで、その間にスキルアップと2人目の出産に集中したい。この選択肢が、私の中で一番じゃないかという結論が出ました。さらに介護が必要な祖父がいて、この期間にお世話をしてあげたいとも考えています。両親が共働きだったため、祖父にはすごくよく面倒をみてもらったし、恩返しがしたいですから。
もちろん、長期間会社に行かないことに不安もあるけれど、スムーズに復職できるように、現在、環境を整え中です。今いる会社では、社外にいてもパソコンを使って社内の会議や資料、人事速報などが見られるようになっているので、どのような動きがあるかはキャッチアップできると思っています。
里帰り出産をしないことで夫に伝えたい思い
――出産後は夫やご家族のサポートが得られそうですか。
近くに親が住んでいないので、基本的には夫婦2人でがんばっていくことになりそうです。しかし産後2週間は、母にサポートをお願いしようと思っていて、その後の1週間は夫に有給休暇を取得してもらい、助けてもらおうと思っています。それ以降は、自治体や民間のサービスを使うか、どうにもならなければ、義理のお母さんに頼もうかなと。そのために、今は区の保健所に月2で通って人脈作りをしていますよ(笑)。
――夫には育休ではなく、有給休暇をとってもらうことにしたのですね。
夫に育休を取ってもらいたいという、強い思いがなかったからです。夫の会社では、男の人で育休を取る人はあまりいませんし、在宅勤務の制度すらありません。彼がどのようなキャリアを歩んでいきたいのか、知った上で結婚しているので、それを妨げるようなことを私はしたくありませんでした。さらに秋には、大事な試験を控えているといった状況もあります。私が休んでいる間は、私の給料も減り、経済的に夫に頼ることにもなるので、仕事をがんばってもらいたいなと思っています。
――里帰り出産はしないのですか。
育児のつらさを夫にわかってもらいたいので、里帰り出産はしません。友人や先輩の話を聞いていると、産後1カ月、2カ月の頃が一番大変だと聞きました。育児がどれだけ大変なのかは、見ていたり助けたりして経験しないと絶対にわかってもらえないと思うので。
育休は取得しないけれど、私がキャリアの関係で子どもの世話ができなかったり、子どもが熱を出したりした時に、サポートする意思が夫にはあります。将来に向けて少しずつ、子育てへの意識を高めてもらいたいなと、長い目で見ています。
――将来のキャリア、目指す方向は。
これまでは会社で偉くなることでしか、自分の存在価値が認められないと感じていました。法務という仕事は計量的な成果がないので、何年目でこのポジションについたというところでしか、キャリアアップの指標がないからです。
でも子どもができて、これからどんな生き方をしたいとか、どういう仕事をしたいとか、どういう成果を出していきたいのかと考えた時に、自分が楽しいと思えることがキャリアの軸だなと思うようになりました。結果的に、今の部署に残り続けるという選択もあると思いますが、育休中に資格を取得したり、他のキャリアにつながる経験を積んだりすることで、キャリアの視野を広げたいなと思っています。今はまだ、自分探し中かもしれませんね。
キャリアアップにつながる、育休の可能性
妊娠によって、キャリアについてあらためて考える機会ができたと話す狩野さん。最近では、育休中にプロボノ(職業上のスキルを生かしたボランティア)やNPO活動に携わることで、職場復帰後のキャリアを充実させたいと考える人も増えているようだ。3年も休んで会社に迷惑はかからないのか……と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、狩野さんの語りからは、真の意味で会社へ貢献したいという会社への愛が感じられた。
復帰後のキャリアを見定め、育休中に十分な準備をすることができれば、育休の期間に関わらず、キャリアアップも目指せる時代が来ているのかもしれない。
次回は反対に、産休だけを取得し、育休を取らないという選択をした妊婦のインタビューをご紹介する。
※写真と本文は関係ありません