スマートイノベ―ションはまずシステム全体の最適化から

同社が推進するスマートイノベ―ションは、(1)(半導体チップの最適化にとどまらずに)システム全体の最適化、ならびに(2)(従来の延長線上にない)新規技術の導入だ。

1つ目のシステム全体の最適化についてだが、半導体産業は、集積回の単体としての供給から集積化したシステムの供給へと進化しようとしている。集積回路単独ではなく、受動部品、ソフトウェア、システム・アーキテクチャ、さらには(いずれは)システム開発まで考慮し、全体最適する必要がある(図2)。

デバイスの改良だけでは余りインパクトを生まない場合でも、システムレベルの最適化は大きなインパクトを生む場合が多い。例えば、データセンターでは、デバイスの最適化で消費電力は2%の削減程度にとどまるが、電源そのものの最適化により8%の削減ができた。さらに、データセンター全体のシステムを最適化することで25%の削減ができた事例もある。

図2 半導体業界は集積回路の供給から集積システムの供給へ:。左が従来、右が現在の状況。トランジスタの集積のみで話を行う時代は終わったといえる (出所:Infineon)

自動運転でもシステム最適化が必須

半導体のおかげで自動運転が可能になりつつあるが、これからの開発は、個々のデバイスレベルではなく、システムレベルの最適化とブレークスルーをもたらすイノベ―ションが求められるようになってくる。各種のレーダーやレーザー、ビデオカメラ、超音波などを駆使して、クルマを安全の繭(Safety Cocoon)ですっぽり包み込む必要があるためだ(図3)。

図3 半導体のおかげで可能になった自動運転にも、システムレベルの最適化とシステムレベルのイノベーションが必要であり、レーダー、レーザー、ビデオカメラ、超音波を用いたセンサ群でクルマを安全の繭で包み込むことでそれを実現する (出所:Infineon)

Infineonは、長年、レ―ダー分野に注力してきており、すでに1500万個のレ―ダーチップを出荷している(図4)。現在もimecと組んで車載レーダー用CMOSベース79GHzセンサチップの開発を進めている途中だ。小型、低消費電力、精密測長、高分解能が特徴であり、歩行者や自転車など小さなものまで検出でき、クルマの安全性がさらに増すことが期待されるという。

図4 レーダーチップの変遷 (出所:Infineon)

新規技術の導入によりもたらされるスマートイノベ―ションの実現

スマートイノベーションは、システムの最適化だけではなく、従来の延長線上にない新たな技術の導入によってももたらされる。従来のSiに替えてSiCやGaNを用いることにより電力損失を減少させ、電力密度を大きく引き上げることが可能となる(図5)。

図5 パワーデバイスの基板材料をSiからGaNに替えることで電力密度は向上する (出所:Infineon)

最後にPloss氏は「Infineonは"デバイスの思考からシステムの理解"へと転換する戦略で企業文化そのものを変え、半導体デバイスの最適化ではなくシステム全体の最適化と従来の延長線上にはない新規技術の導入でスマート・イノベ―ションを起こしていく。あくまで半導体企業であるので、システムそのものを製造することはしないが、それでもシステム思考(system thinking)をしていくことが重要であることには変わりはないからだ」と、話を結んだ。