ドイツの代表的自動車メーカ―であるAudi(アウディ)のエレクトロニクス半導体技術センター所長兼Audi Progressive SemiConductor Program(PSCP:アウディ革新的半導体プログラム)実行責任者のBerthold Hellenthal氏が、去る5月下旬にベルギー・ブリュッセルにて開催された「imec Technology Forum(ITF) Brussels 2016」にて「明日はすでに始まっている! 将来の車載エレクトロニクスへの挑戦」と題した招待講演を行った。
クラウドとデータとネットワーキングの時代始まる
講演の冒頭、Hellenthal氏は「自動車の歴史を、技術・性能面から捉えると、1970年代まではメカニクスの時代、1990年代まではエレクトロニクスの時代、2010年代まではソフトウェアとネットワーキングの時代、次は、クラウドとデータとビジネスモデルの時代であるが、その時代はすでに始まっている(図1)」と述べ、 この 新時代に半導体の果たす役割や半導体メ―カ―と協業する重要性について語った。
クルマのイノベーションの8割は半導体で実現
今後の車載エレクトロニクスは主に次の3つの事実で牽引されるとHellenthal氏は言う。
「1つ目は、自動車イノベ―ションの80%が半導体によってもたらされるという事実」。自動車の製造コストに占める半導体などの電子部品の割合は、年々増加しており、1991年に10%に達して以降、今は3倍増の30%、2020年には35%、2030年には50%へと伸びることが予測される(図2)。自動車の半導体依存度はますます高まり、クルマのイノベ―ションも性能も品質もコストも半導体次第になりかねない状況である。
新しい半導体のクルマ搭載時期が極端に短縮
「2つ目は、新たな半導体技術が最初にコンピュータやコンシューマエレクトロニクス市場に投入されてから、それを自動車に適用されるまでの期間(成熟するまでの期間)は、連続的に、指数関数的に短くなっている」という事実である。
その期間を示したものが図3だが、以前は、半導体が成熟し車載用に使われるまで7年半もかかっていたものが、それが急速に縮まり、そのギャップが無くなりつつある。つまり、クルマのイノベ―ション競争が激化しているため、新たに開発された半導体は成熟するまで待つことなく、真っ先にクルマに適用されるようになる。そのため、信頼性をどのように確保するか大きな課題となっている。
図3 半草体プロセスの微細化(技術ノ―ド)の変遷。ピンクの領域は、車載半導体に採用されている技術ノード、黒線は、国際半導体技術ロードマップ(ITRS)で示された、その技術ノードの半導体が製造開始された時期、青色の領域は、半導体の製造開始から実際に車載されるまでの期間(その半導体が成熟するまでの期間)を示す (出所:Audi) |
半導体の応用分野や顧客の期待は変化する
「3つ目は.半導体の応用分野、使用事例、顧客の期待などは、不燃性ドライブトレイントとかネットとの接続性とか自動運転に向けたロードマップなど、その時々の話題によって変化する」ということである。
これらの3つの事実が車載エレクトロニクスに新たな挑戦を課しているとHellenthal氏は指摘する。例えば、(1)新しい半導体技術を、品質を犠牲にすることなく、いかにさらに速くクルマに適用できるか、(2)毎日1時間余り限られた時間だけ(1.5時間×15年間=8,000時間)ドライバーが運転する場合の耐久性を、ドライバーレスの自動運転でほぼ常時使用(22.5時間×15年=121,500時間)の場合の耐久性へとどのように高められるか、(3)半導体をどのようにクルマに活用し、どのように半導体にやさしい環境を造れるか、など取り組むべき課題は多い。