昨年9月のスペシャルイベントで発表、11月より販売が始まった12.9インチiPad Pro。年が明けて3月、またまたスペシャルイベントで、今度は9.7インチモデルが発表、4月より販売が開始された。

スペシャルイベントでは、「究極のPC後継者」と紹介されたiPad Proは、その名が示す通り、プロフェッショナルな現場で幅広い支持を受けている。

今回はiPad Proを自身のクリエーションで活用しまくっているという、「THE VIEW」主宰のクリエイティブディレクター・五十嵐光一さんにお話を伺った。「THE VIEW」は、名古屋三越 LA CHICで展開している期間限定のライフスタイルショップだ。

五十嵐光一(いがらし・こういち) 1980年生まれ。福井県越前市出身。名古屋在住。アパレルブランド、デザイン事務所を経てCOFFEE,PLEASEやInter viewなどの形態で総合ディレクションを務める。ローカルにおけるさまざまなヒトやモノをリアルな現場に展開し、クリエイティブをよりユニークな形で見出す活動を展開。Instagramアカウントは@igarashi_51@the_view_japan

五十嵐さんは、福井県越前市の出身。越前ガニ、越前和紙、越前漆器などで知られる町で育った。ファッションに興味を持つようになって、通販ページのある雑誌を読み漁り、服や靴を探し回っていたという。高校卒業後は名古屋の大学へ進学。その後、イタリアへと渡る機会があり、そこで建築物に惹かれるようになる。この体験が現在の仕事へと繋がることになった。大学卒業後、有名なセレクトショップを手がけるアパレルブランドへ入社。約10年勤務した後、デザイン事務所を経て、ファッションと建築とカフェを融合させた「THE VIEW」を展開することとなる。

「THE VIEW」の前には「THE SHOP」という"お店を創造する"をコンセプトにした複合型セレクトショップをディレクション。内装を全て自身で手がけ、「いいなあ」と思ったショップや、「いいなあ」と思った職人を巻き込んで起ちあげたのだが、この時、LA CHICの店長に「景色が変わってるわ~、五十嵐くん、景色が変わってる!」と評価されたのをきっかけに「景色を創造する」という「THE VIEW」のコンセプトが固まる。

コーヒーについての造詣も深く、その知見は「COFFEE,PLEASE」というコーヒースタンドとして結実。その名の通り、COFFEE,PLEASEと言われたらどこでもコーヒーを出しに行くよというショップのデザインにも携わっている。


――セレクトショップだったり建築デザイン、カフェとさまざまな場面で、そのクリエイティビティを発揮しているわけだが、iPad Proをどのように活用しているのだろう。

五十嵐 まず、僕は建築系の学部卒ではなく、専攻は経済・経営だったんですよ。父親の仕事が建設関係だったので、お小遣い稼ぎのアルバイトで、「こうすりゃ、こうなるんだー」っていうのが多少あったんですけど。それ以外はまったく。だから設計ができるわけでもなく、もどかしさを感じていて、頭の中ではこういうの作りたいのにっていうのを写真で説明するしかなかったんです。そこで登場したのがiPad Pro。何が良いっていうと、THE VIEWのプロジェクトで説明すると、写真だの図面だのにその場で書き込みができるんですよ、もちろん写真を撮ったりとかも。

――ドラスティックに仕事のフローが変化したという五十嵐さん。熱っぽくiPad Proの魅力を語る。

五十嵐 図面が来て「こんなんです」と書きこんで設計に送ったりとか、前は電話や直接工場に行って「これ外してください」と言ってたのをスッと書いてすぐ送れて、さらに、例えば木のイメージをどうするかといったことを、直接ピンときたところから引っ張って来られる。今まで1~2週間かかっていた作業に、"どこでもペンシル"とも言うべきApple Pencilがあるので、空いた時間に書いて、メールでパッて送れば、ゼロの図面から、たった5日で、スムーズに完了するようになりました。iPad Pro無しではもう仕事できないですね。

12.9インチiPad ProにApple PencilとSmart Keyboardを愛用

――従来は、図面を大量にコピーして、手描きしたものをスキャンして送り、イメージが伝わらない場合は電話して、「分からない」となると、現場に行って説明していたとのことだが、iPad Proを使うと、これらのことが全部あわせてできて、あっという間に形になるという。お陰で仕事の幅が広がり、コミュニケーションもしやすくなったとのことだ。一連の作業には「Paper - FiftyThree のテキスト、写真へのメモ、スケッチツール」を利用している。

五十嵐 最近教えてもらったアプリがあって「Notability」って言うんですけど、これが超絶良い。パルコの「渋カル文化祭」の名古屋版で「ナゴパル文化祭」っていうのがあるのですが、それのクリエイティブ・ディレクターに就かせて頂けたんですね、その打ち合わせしたんですが、このアプリ、メモとりながら録音できるんですよ。で、後から録ったの聞くとき、メモの部分を押すと、書いてた際に話してた内容が再生されるんです。あの人、何喋ったかなと思って押すと、そこに話が飛ぶんですよ。人間の記憶力なんて、たかが知れているじゃないですか。何を求めてるかとかが分かるのですごい便利。

何よりもまず、iPad Proと五十嵐さんの仕事との相性が良さそうだ。いろいろできるからいろいろ使っているという風に聞こえてくる。

五十嵐 そうです、だから、iPad Proは、僕なんじゃないか? と思ったくらいで(笑)。僕みたいな人向けですね。あれやりたい、これやりたい、そしてその工程をなるべく自分でやりたいという人。僕がこうなってしまったのは、こういうことやるのってリスキーなので、賛同者が少ないんですよね。自分である程度用意しておいて、できないことは専門の方に任せるスタイル。ここまでは自分の頭の中にあるけど、物理的にもしくは専門的にできないことってあるので、それを究極に高めておいて投げるというやり方の人にマッチする道具だと思います。

――Apple Pencilが特にお気に入りというご様子だが、サードパーティが作っていた、所謂スタイラスペンとどこが違うのだろう?

五十嵐 ペンとしてスッと出せるのが大事です。微妙なズレがあるとそれに気がとられちゃってイライラするのですが、Apple Pencilは思い描いたことがそのまま直感的に落ちるので、これだなと思っています。アーティストみたいなこと言ってますよね、僕、ビジネスマンなんですけど、大丈夫かな(笑)。何より描くのが好きなんですよ。今までの「絵」だと伝わらなくて、キレイに描こうとする時に、写真を撮ったり、書き込んで説明するのに使っています。これならプレゼンテーションする場合に説得力が出てきますので。

Paper - FiftyThree のテキスト、写真へのメモ、スケッチツール」を利用して図面などに指示を書き込み、情報を共有する

――インターネットで情報収集するのも楽なはず、と思ったのだが、意外とそういった用途には使ってないという。実際に観に行ったり、会ったりするのが好きなのだそうだ。クリエイターやスタッフのセレクト基準も、本人に会ってみて、自分にフィットした人と組むとのことだ。このことについて、五十嵐さんは「フィットしなくて、一回仕事して終わってしまったことがあったのですが、次のプロジェクト進めないというのは、"人"も大事だと気づかせてくれた良いきっかけになりました」と話す。五十嵐さんにとって、iPad Proはなによりもまず、コミュニケーションツールなのだ。そうして、自分にとって腑に落ちることが肝要なのである。

五十嵐 そうです。ちゃんとそこに落とし込む。せっかく明確になるのであれば、自分の中で良い悪いを判断しておきたいというのがあるんじゃないでしょうか。洋服も同じで、着ずに良くないとは言えない。袖を通して、こういう体型の人に合うとか、自分だったらこれが良いとかがあり、着ずにブランドで判断するのは全然好きじゃなかったんで、後輩にもよく「他人から聞いた話で賛否つけるのはよくないよ」って言ってました。それがずっと20代から根づいてるんじゃないですかね。唯一それが僕のインスピレーションだと思っています。試したこと、観たこと着たこと触ったこと食べたことを判断するようにしています。その判断をするために実際に足を運んだりとかする。行ってないところは正直に「行ってない」と言いますし、見ていないものは、「ごめんなさい見ていないんですけど、面白かったですか?」と聞きます。

――仕事を円滑に進める上でiPad Proを活用するのはもちろんだが、自分の判断力を高めセンスを磨くのも大事、という印象を受ける。その上で、iPad Proを持って歩くのが重要だとも。

五十嵐 iPad Pro1台でほとんどの仕事が賄えるようになって、持ち運ぶのはこれだけになってます。名刺よりもこっち。名刺忘れたりして(笑)。前に財布を持たずにiPad Proだけ持って電車乗って大変な目に遭ったことも。Suicaで入って、出る時に料金不足でチャージしようって思ったら財布がないことに気が付いて"エッ"って。観に行ったものを写真に収めたりもしてます。めっちゃキレイに撮れるし。オフの時はこれで音楽聴いたり、YouTubeや映画を観たりしています。

――……早く日本でもApple Payが使えるようになるといいですね、と声をかけたくなる微笑ましいエピソードもありつつ、幅広い使い方ができることを改めて教えてくれた。また、自分が良いと思ったものは他人に薦めたくなるそうである。

五十嵐 個人事業なんで、僕=五十嵐っていうのを信頼してもらわなければいけないじゃないですか。その信頼って何かな、という時に、自分の体験を他者に伝えるっていうのは、信頼のひとつなのかなあと。「デザインが五十嵐くん、イマイチだけど、人がいいから仕事あげよう」ってなれば、最高だなと思ってます(笑)。それも結果かなと思ってますから。

Pixelmator」もよく使うアプリだと薦めてくれた。余計な写り込みを消すのに重宝しているとのこと

――愛用しているiPad Proも周りの人に薦めているらしい。確かに周りが同じiOSデバイスを持っているなら、よりスムーズに仕事も進められるだろう。例えば、作成した図面はAirDropですぐ現場で渡せるし、撮った写真もフォトストリームを利用することで共有できる。iCloudを活用すれば、遠隔地でもプロジェクトを進められる。今後の発展性を考えれば納得の選択だ。次に繋げることに重きを置く五十嵐さんにとって、やはりフィットするデバイスなのだ。

――最後に今後のTHE VIEWの展開について伺ってみた。

五十嵐 THE VIEWは、9月30日で閉店します。今の旬なモノやデザインを見せる場が欲しいというのがあって、最長でも半年、最短1カ月でお店をクローズして、次の新しいモノをやっていくっていう感じなんです。あと、「Inter view」っていう企画をやっていて、これは名古屋では紹介されていないファッションクリエイターを誘致するというものです。さっきのNotabilityでインタビューとって、記事書いてますね。簡単なペーパーつくって、モノを東京から送ってもらって、会場作って、モノを見てもらって、インタビューしたその方たちも呼んでるっていう。名古屋に『LIVERARY』っていうWebマガジンがあるんですけど、そこと共同でやったりとかする感じです。それが11月から始まります。僕の関わってる企画は全部「view」が付いているんですよ。Interviewも、語源は「Inter」と「View」二つの語。もともとお互いを見ることをインタビューって言うらしいんですね。「互いを見る」ことで「新しい価値」や「可能性」を見出したいと思って取り組んでます。

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