昔ながらのビジネスモデルや、廃れつつあるモノやコト……。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それが途端、斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。そこには多くのビジネスマンにとってのヒントがある、かも。そうしたビジネスモデルにスポットを当て「リブート! “再起業”の瞬間」としてシリーズでお届けします。第5回目は、オフィスに「置き惣菜」という形で、新しい社食ビジネスを展開する『おかん』です。

仕事中のランチタイムでも、おいしく、安く、体によいものを食べたい……。

そうは思えど、忙しさと面倒くささから「いつものコンビニでいいか」「ファストフードで済ませよう」と妥協しているビジネスパーソンは少なくないはずだ。もとより「オフィスの周囲に飲食店が少なくて、選択肢がない」と嘆く人も多い。

こうした働く人の食のニーズをひろって、急成長を遂げているのが『オフィスおかん』だ。

株式会社おかんが展開する、オフィス向けの「置き惣菜」というユニークなビジネス。契約した企業に同社が専用の冷蔵ボックスを社内に設置。そこに和食のおかずを中心に、ごはん、スープなどの各種お惣菜を週単位、あるいは月単位で一定数補充、提供するサービスだ。

収益源は二つある。まずは企業からの定額利用料だ。企業はオフィスおかんを、簡易的な社食として従業員の福利厚生のために導入。月100個までで月額3万円~の定額量をはらう。そしてもう一つは従業員が支払う飲食代。この「置き惣菜」は一個100円で提供され、従業員は安価に、いつでも、お惣菜を食べられる、というわけだ。

惣菜は健康に配慮して、不要な添加物は使用せず、1カ月間の冷蔵保存が可能。食材の栄養素や風味などを損なうことのない特殊な製法で調理、真空パックしているため、電子レンジでチンするだけで、しっかりと身体に良い食事を摂れるのも売りだ。安価で手軽ながら、先述したような「忙しいけれど、体によいものを」と願うビジネスパーソンの要望にしっかりと応えられる。

株式会社おかん代表取締役CEO沢木恵太さん。1985年長野県生まれ。FC支援を行うコンサルティングファーム、Web系ベンチャー等を経て2012年株式会社おかん(当時CHISAN)設立

「『おかん』という名前にしたのは、おふくろの味を想起してほしいという思いもありますが、母親が子どもたちに“おせっかい”をやくサービスでありたいと考えたからなんですよ」と事業の発案者で、株式会社おかん代表取締役CEOの沢木恵太さんはいう。 「『ちゃんと栄養のあるもの食べなよ』とお弁当を持たせたり、一人暮らしの部屋に食べ物を送ってくれるような存在です」(沢木さん)。

2014年にローンチしたサービスながら、すでに300のオフィスや事業所が契約して利用中だ。スタッフ数3~4名の街のクリニックから、数千名を超える一部上場のIT系企業まで、顧客は規模も業種も多種多様。しかも、ほぼすべての企業が、広告費をかけてアプローチしたものではなく、ウェブや媒体取材などで存在を知り、導入してもらえたたという。

“おせっかい”な新しい社食スタイルが支持された理由は、冒頭で示したような多様化する働く人の食のニーズに極めてフィットしたことだろう。

就労人口が減り続けていることを背景に、優秀な人材を確保するため、福利厚生に力を入れる企業が多い。とくに最近は、グーグルやフェイスブックなどに代表されるIT企業の影響もあって、あらためて「社食」設備を充実させている企業が増えてきた。

もっとも、社食を導入するのは当然、高いコストがかかる。しかも、企業で働く従業員のワークスタイルは多様化する一方だ。24時間営業するようなサービス業も増え、就労時間も幅広くなってきた。営業時間が限定されがちな社食では、従業員の食のニーズをフォローしきれなくなった。

しかし、オフィスおかんなら、企業はわずかコストで「ぷち社食」を導入できる。しかも、いつでも気軽に冷蔵庫をあけ、レンジでチンすれば利用できるため、多彩な食のニーズにフレキシブルに対応できる。そのうえ、健康意識の高まりにも、オフィスおかんの安全安心な惣菜は、極めてマッチしたわけだ。

オフィスおかんは、オフィスに設置した冷蔵庫に、健康的な惣菜が置かれる「置き惣菜」ビジネス。惣菜は個食に適した、70~100gのコンパクトなサイズになっている

実は従業員が、オフィスおかんの惣菜を自宅用に購入して退勤。そのまま帰宅したり、保育園に向かい、買い物時間と料理の時間を短縮する、という使い方も多いという。新しいおかんの社食スタイルは、もはや社食を超えた利便性を提供しているのだ。

それにしても、このユニークな事業は、どのようなきっかけで思いついたのだろうか?

「実は会社員時代の僕の『健康診断』結果が発端なんですよ(笑)」(沢木さん)。