6月1日、台湾で開催されているIT関連の展示会「COMPUTEX TAIPEI 2016」における恒例イベント「Microsoft Forum」において、Terry Myerson氏(executive vice president, Windows & Devices Group)、Nick Parker氏(corporate vice president OEM Division)、Alex Kipman氏(technical fellow and inventor of Microsoft HoloLens)らが基調講演に登壇した。
例年は、Nick Parker氏だけが登壇して台湾のOEM、ODMベンダーへの謝意を表明するのだが、今年は、異色の顔ぞろえだ。何かが起きると期待してしまう。
Windows Holographicをパートナーに公開
そして、その期待通り、同社はHoloLensのプラットフォームであるWindows Holographicをパートナー向けに公開、HoloLensが切り拓こうとしているMixed Reality(MR: 複合現実)の世界を、各社がそれぞれの方法で参入できるようになることが表明された。これによって、MicrosoftのHoloLensだけではなく、各社が独自のフォームファクタで、この領域に参入できるようになる。
ARだのVRだのが、まだ海のものとも山のものともわからない中で、このMRがどのような進展を見せていくのか、あるいは3Dテレビのように一時的なブームで収束してしまうのかはまだわからない。だが、その可能性に駆けるサードパーティの参入を歓迎することにしたMicrosoftの今回の発表は、パートナーあってこそのMicrosoftという、同社の原点に立ち戻ったものであり、その方向性が歓迎されるのはごく自然な成り行きだ。昨今では、Surfaceによって、いわば聖域だったハードウェアサードパーティのビジネスチャンスを奪いかねない行動で顰蹙に近い印象を持たれていたMicrosoftだが、その反省もきっとあったに違いない。
Windows Hello対応の注目デバイス、ひっそりお披露目
基調講演は、Myerson氏の進行によって、3つのパートで構成されていた。
最初は、この夏リリースされるというWindows 10 Aniverssary Updateの紹介だ。デモンストレーションが披露され、新たな機能がお披露目された。
開発コードRedStone1とされる夏のWindows 10の紹介は、Insider Previewなどで追加される新機能の既知のものばかりだったが、Windows Inkについては、付箋やスケッチパッドとCortanaの統合などの機能が紹介されていた。たとえば、付箋に「$MSFT」と入力しておくと、その株価がいっしょに表示されるといったものだ。さらに、箇条書きの順序をペンのジェスチャで変更したり、終わったToDoにジェスチャで「済」マークを付けるなど、現行の最新ビルドでも実装されていない、あるいは実装されていても表面には出ていない機能も紹介された。
また、Windows Helloによる認証の紹介でMicrosoft Bandなど、新たな対応デバイスが紹介されたほか、指紋認証や顔認証のための新しいデバイスがお披露目されるはずだった。
はずだったというのは、ちょっとした手違いで、その存在がスルーされてしまったからだ。実は、そのための外付けデバイスとして、IRカメラつきの外付けフロントカメラや、USB端子に装着して使う極小の指紋リーダーを日本のマウスコンピューターが開発中で、そのことが明らかになるはずだったのだ。
ただ、Windows Hello対応だけをターゲットにして極限までコストダウンを図ったこれらのデバイスは、より簡単にPCを使い始めることができるWindows Helloの魅力を伝えるための強力な飛び道具になるはずだ。あとで種明かしがあったとはいえ、日本人としてはちょっと残念だった。
Windows成長の軸は2-in-1とゲーミング
Nick Parker氏は例年通り、各社によるWindowsデバイスを淡々と紹介した。これからのWindowsの成長として2-in-1とゲーミングPCが伸長するであろうこと、また、IoT、そしてオールインワンの伸びも目立つとしていた。また、Windows 10 Mobile端末として、HPのElite x3が強固なエンタープライズセキュリティに対応していることを強調し、モバイル分野に対する意欲を再確認したかたちだ。
HoloLensは「未踏の可能性」、Viveとの"共演"も
HoloLensについては、Mr. HoloLensともいえるAlex Kipman氏が登壇、その魅力をいつもながらの様子で伝えた。
この人を最初に見たときは、大丈夫かと思うくらいにひ弱な印象があったのだが、発表から2年が経過した今、立派なひげも蓄えトム・クルーズ的な風合いも感じさせる雰囲気が、この新たなプラットフォームの未踏の可能性を醸し出していた。
日本においては先日JALによる採用の記者会見で初お披露目されたHoloLensだったが、台湾ではこのタイミングが初となるだけに、会場の参加者は興味津々でデモに見入っていた。
HoloLensプラットフォームが公開されることを受け、基調講演後に行われた日本のVAIO、マウスコンピューターそれぞれの共同記者会見では、両社共に前向きに参入を検討することを表明している。
台湾勢のウケを得るためには、もうひとつ、たとえば「Windows 10 Aniverssary Updateが完成、7/29に一般リリース決定、本日からInsiderとOEM各社に公開」といったサプライズ的要素があってもよかったんじゃないか。こうした空気感をうまく使えるようになることも今のMicrosoftには必要なんじゃないかと思う。