2016年5月11日に、FileMakerの新バージョン、「FileMaker 15プラットフォーム」の提供が開始された。FileMaker Pro、FileMaker Goなどの製品が同時にバージョンアップしただけでなく、ユーザーから長く望まれていたスマートフォンのブラウザからのアクセス、さらに新しいライセンス体系の導入など、「FileMakerアプリケーション」のバージョンアップというよりは、まさに「プラットフォーム」のバージョンアップと言える。 この新バージョンの提供開始にあたって、ファイルメーカー株式会社社長のビル・エプリング氏、North Asia Sales Directorの日比野暢氏、法人営業部セールスエンジニアの小林ひとみ氏、マーケティング部シニアマネージャーの荒地暁氏に話を聞いた(以下、敬称略)。
モビリティ関連機能がさらに充実
-- 今回のバージョンアップでは、FileMaker Serverでホストしているファイルをブラウザで利用するWebDirect機能に関して、iPhoneやAndroidスマートフォンなどからもアクセスできるようになったことが、大きなポイントのひとつですね。
エプリング そうですね、WebDirectをすべてのプラットフォームから利用したいというお客様からの声に応えられたと思います。2017年にはインターネット利用の87 %はモバイルデバイスになるという予測もあり、デスクトップコンピュータからiOSデバイスへ、そしてスマートフォンへというのは、開発の流れとして自然なことでした。今回のバージョンアップでは、スマートフォンのブラウザからのアクセスだけでなく、モビリティに関してほかにも重要なポイントが多数あります。
-- FileMaker Go 15は、Touch IDや3D Touchのように、iOSデバイスの最新機能に対応していますね。
エプリング Appleの最新機能に対応すると、FileMakerのユーザーはそれをすぐに使う傾向があります。今回もおそらくそうなるでしょう。Touch IDのサポートは、私の今回のお気に入りのひとつです。パスワードを忘れても大丈夫ですから(笑)。iBeaconも簡単に使えるようになりました。今後、エキサイティングな事例をご紹介できるようになると思います。楽しみです。
-- iBeaconとFileMakerの組み合わせで、どのような活用を想定していますか?
エプリング 位置情報とコンテキスト(利用状況)を活用できるということですから、たとえば医療現場では有効でしょう。医師や看護師が患者さんのもとへ行ったときに必要な情報が得られるというような使い方ですね。ほかにも博物館、倉庫業務、自動車のディーラーなど、さまざまな場面が考えられると思います。
日比野 海外から日本を訪れる方が増えていますから、多言語対応にも役立ちますね。たとえば美術館で作品の前へ行くと、デバイスを持っている人に応じた言語で作品説明を表示させることができます。しかもFileMakerプラットフォームを使うことによって、どの絵の前で、どの言語を使う人が、どれぐらいの時間立ち止まっていた、というようなデータの取得と分析もできます。作品説明などのコンテンツを、いちいちシステム業者に依頼しなくても、美術館のスタッフ自身がすぐに変更できるという利点もあります。
セキュリティや外部ソースの利用など、開発者にぜひ活用してほしい新機能
-- モバイル環境での利用が広がると、セキュリティがますます重要になりますね。
エプリング セキュリティはFileMakerにとって絶対的な指針です。今回もSSL証明書関連の機能などが強化されていますが、もちろん今後も何よりも重視して取り組んでいきます。また、FileMakerを使えばデータをデバイスに一切残さずに利用できるため、万一デバイスを紛失してもそこからデータが漏洩することはありません。
-- FileMaker 15の注目の新機能として、ほかにはどのようなものがありますか?
小林 まず、ESSアダプタの搭載ですね。これにより、接続できる外部SQLソースがさらに増えました。
荒地 PostgreSQL、IBM DB2にも接続できるようになっています。
日比野 電子カルテ、基幹システム、AWSなど、FileMaker 15の新機能を使った連携の開発やテストをすでに実施しているお客様も、もちろんいます。
エプリング ESSアダプタに関しては日本市場からの要望が大きかったんですよ。それがなかったら、このバージョンに搭載されなかったかもしれません。実現して、私もうれしく思っています。
小林 ほかにはスクリプトワークスペースの機能強化など、開発のしやすさが向上しています。開発の工数が減りますから、より多くのお客様に活用していただきたいですね。
社外、社内とのコミュニケーションにより開発プロジェクトを改善
-- 先ほど日本市場からの要望というお話がありました。ユーザーや開発者からの要望をどのように吸い上げ、どのように開発を進めているのでしょうか。
日比野 エンジニアとセールスの部門の間で月に1回ビデオ会議を実施し、連携が良くなっています。
エプリング 健全なディスカッションができ、開発プロセスが改善していますね。ほかには、ユーザーを対象としたイベントや開発者会議などで、お客様や開発パートナーと情報交換し、開発に関する情報開示もしています。そのため、サブスクリプションのライセンスを利用しているお客様に今後の方向性を検討していただけます。
荒地 お客様は弊社のWebサイトやFileMaker Proのメニューから要望や不具合を送信することもできます。お寄せいただいた情報はサポートチームからレポートを上げて社内で検討しています。
新規顧客獲得とエクスペリエンスの向上にさらに注力
-- 今回の新バージョンでは「FileMaker Licensing for Teams」(FLT)という新たなライセンス体系も導入されました。
エプリング FLTは、新たにFileMakerを導入するお客様に、よりシンプルなプロセスで提供するためのライセンスです。新規のお客様にとってはベストな方法で、おそらく今後の主流となるでしょう。FileMaker Serverを中心として、FileMaker Pro、FileMaker Go、ブラウザと、さまざまなクライアントから接続して利用することを想定しています。潜在顧客の3分の2は、1人で3台以上のデバイスを使用しているという調査結果があります。そこで、ユーザー数をベースに契約していただき、さまざまなクライアントからアクセスできるようにしました。従来の年間ライセンスや永続ライセンスがなくなるわけではなく、新たに導入するお客様の選択肢を増やしたということです。
-- FLTのほか、バージョン15でFileMaker Proに新たにシンプルなStarter Solution(いわゆる「テンプレート」)が追加されるなど、これから使う人に対してアプローチしていますね。
エプリング 従来の年間ライセンスの更新数は増加し業界最大のライセンス体系となっていますが、弊社のビジネスの成功のためには新しいお客様の獲得も欠かせません。これから使う方々をまず魅了し、使う際のエクスペリエンスをより良いものにして継続していただくという、2つのことが必要です。シンプルなStarter Solutionのほか、トレーニングの実施、『FileMaker Drill Book』などの資料の制作、Webで配信するセミナー、Webサイト上でのコミュニティやフォーラムなど、さまざまな取り組みをしています。
荒地 『FileMaker Training Series:基礎編』のバージョン15版は、製品リリースと同時にiBooks Storeで無料配信を開始しました。
日比野 無料の「iOSセミナー」は1年間で1,100人、有料の2~3日間のセミナーも900人のお客様にご参加いただいた実績があります。参加しているお客様の様子などから重視すべきポイントなどのフィードバックを得ていますので、それを反映させた新しいコンテンツを開発し今後もトレーニングを実施していきます。
エプリング 機能の豊富さとシンプルさのバランスを取るのは難しいことです。使いやすさと同時に「学びやすさ」も重要だと思っています。トレーニングのような日本での成功事例をグローバルに展開する予定です。また、たとえば本からYouTubeへというように、多くの人たちの学びの形が変わってきていますね。「学びやすさ」については今後、力を入れて取り組んでいきます。
-- ところで5月6日に、AppleがiOSプラットフォームに関してSAPと連携すると発表されました。データベース、あるいはビジネス市場という大きな括りで考えるとFileMakerと無関係ではないと思いますが、どのように捉えていますか?
エプリング ビジネスのソリューションとしてiOSが有効でパワフルである証しですし、Appleがビジネス市場に今後も力を入れていくということですから、グッドニュースです。2015年6月までの1年間のAppleのビジネス市場での売り上げは250億ドルと発表されていますが、これは驚くべき数字ですね。FileMakerのさらなる可能性を感じて勇気づけられていますし、逆にFileMakerがAppleのビジネス市場へのコミットに寄与できるとも考えています。