実現の方法であるが、スパコン側のチップと同様に、半導体チップの極薄化と磁界結合を活用することを考えている。

慶應義塾大学の黒田先生考案の磁界結合による3D積層されたチップ間の通信は、チップの厚みを薄くすると、それに比例してコイルの直径を小さくでき、データレートも上げられる。結果として、面積当たり8倍の速度でデータを伝送できるようになり、微細化と相性が良いという。

磁界結合はチップの厚みを半減すると、面積当たりの情報伝送量は8倍になる微細化と相性の良い技術

ニューロンは、多数のシナプスを持ち、それぞれのシナプスは異なるニューロンに情報を伝達する。電気回路的にいうと、非常に大きなファンアウトが必要になる。磁界は複数の極薄チップを通り抜けて、複数のチップに同時に信号を送ることができるので、大きなファンアウトの実現が容易であるという。また、磁界結合自体はアナログ現象であり、磁界結合の強さを変えることにより、シナプスの結合の重みづけを変えられる可能性もあり、ニューロンを模倣するのに適しているという。

磁界結合は積層された複数のチップに同時に信号を送ることができ、多数のシナプスに信号を送ることがきる。また、磁界の結合度を変えて信号の重みづけを変えられる可能性もある

PEZYグループの開発ロードマップは、次のようになっている。2017年? には100PFlops、2019年? には1ExaFlopsというスパコンの開発ロードマップと並列して、人工知能の開発ロードマップが描かれている。ハードウェアの7割は共通技術で開発・製造が可能と見ている。

国内の研究・臨床機関やWBAIなどの研究で、脳の機能の解明が進むと見ており、その成果を利用しながら、PEZYグループとしては、2020年ころには前述の極薄ウェハと磁界結合を使うハードウェアを実現する。そして、2025年ころには、ソフトウェアによるシミュレーションではなく、ハードウェアが脳の機能を持つようにし、自己進化機能も持たせるという。こうなれば、人工知能が爆発的に進歩する特異点が出現することになる。

100PFlops、1ExaFlopsのスパコンの開発と並行して汎用人工知能の開発ロードマップが作られている。ハードウェアの7割は共通技術で開発・製造が可能

これまでPEZYグループは、メニーコアの計算チップを開発するPEZY Computing、浸漬液冷を使うコンピュータシステムを開発するExaScaler、磁界結合の3D積層DRAMを開発するUltraMemoryの3社体制であったが、この6月にも高効率の人工知能ハードウェアを開発するDeep Insightsを創立して開発を開始するという。

このDeep Insightsの開発するハードウェアはノイマン型プロセサであるが、独自の構成と製造手法を使うことにより、Deep Learningなどの人工知能処理をこれまでのハードウェアに比べて大幅に高速化することを狙っている。

これまでの開発ノウハウなどをベースに、2年後に7nmプロセスを使って速度と集積密度の双方を上げることで10倍、磁界結合による大容量・超広帯域メモリを多チャンネル化(メモリ帯域100TB/s)してダイ上に取り込むことなどで10倍、ダイナミックな計算精度変更を可能にして、低精度演算を活用することで10倍の性能改善を得る。これらの組み合わせで、全体では1,000倍の性能改善を実現したいとしている。

PEZYグループは、2016年6月にDeep Insightsを創立して高効率人工知能ハードウェアの開発を開始する

なお齊藤社長は、WBAIの山川氏などに向けて、高速な人工知能エンジンを供給することで、研究を加速したいと熱望していることを強調していた。