AlphaGoの衝撃
冒頭で説明したディープラーニングを一躍有名にした出来事といえば、AI囲碁棋士のAlphaGoが世界チャンピオンを破った一戦だろう。人工知能にとってもっとも難しいゲームといわれており、人類を破るまでにはまだ数年かかると見られていた囲碁でAIが勝利したことは世界に衝撃を与えた。
このAlphaGoの仕組みはどうなっているのか。
山川氏によるとAlphaGoのシステムとは「ポリシーネットワーク(打ち手を想像する)」と「バリューネットワーク(打ち手を評価する)」の二つであり、これらを駆使して盤面を解析し勝利するための打ち手を推定するというものである。
これまでAIは盤面全体を見て何となく状況を判断する「大局観」を持つことが苦手だったが、ディープラーニングのおかげで大局観を身につけ、これが人類への勝利につながったのだという。
囲碁ですらAIに敗れるとなれば、人類はあらゆるゲームでAIに勝てないのではないか。ゲームの定義を広げて、たとえば「経営」や「戦争」はどうだろうか。
そんな質問に稲見氏は「ゲームになれば人類はAIに勝てないだろう」としながらも、「ゲームの勝利条件をどう設定するかにもよる。囲碁も将棋も勝敗ははっきりしているが、戦争は何を持って勝ちとするのかわからない。その価値判断を作るのは人」だと述べる。
たとえば以前、IBMの人工知能ワトソンが新しい料理を提案するワトソンクッキングという試みがなされたが、AIにはある一人にとっておいしいものを作ることができても、来場者全員に向けてどんな料理を出せばいいか判断することは難しい。これはつまり、稲見氏がいう「価値判断」がまだAIにできないからだ。
しかし、現在AIには難しいことでも、今後研究が進めばどんどんできることは増えていくだろう。ではそうなったとき、最終的にAIは人類を超越するのだろうか。
この難しい問いに今井氏は「人類を超えるというよりは、人類と違うものになってほしい」と答えた。
「AIは人類にとって貴重な他者として存在してほしい。AlphaGoでも人類が見たことのない手を打ってきたら、人はそこから学ぶことができる」(今井氏)
今井氏の意見を受けて山川氏は、そもそもAIが人間と同じ存在か違う存在かで意見が分かれると持論を展開。「まったく違うものだとそもそも話が通じなくてコミュニケーションできないので、考え方は人間っぽくなる方がいい」(山川氏)
一方の稲見氏は「人間にとって自然はなぜそうなっているのかわからないもの。せいぜい天気予報くらいしかできない。AIは我々が認知できない存在として、新しい自然環境の一部になっていくのでは」と未来を予測した。
AIが人間を"超える"とは
AIが人類を超えるかどうかについては未知数ゆえに意見が分かれるところだが、ではそもそもAIが人類を"超える"とはどういうことなのか。最終的にどうなればAIが人類を超えたといえるのだろうか。
山川氏は現在のAIの学習範囲があくまでも専門分野だけであることに着目し、「人間の特徴であり強みは違う分野からでも学習できること。AIがそうした柔軟な応用能力を持ったとき、人類を超えたといえるのでは」と考えを述べる。
稲見氏は再び囲碁を例に挙げ、「囲碁では棋力が2段違うと、相手がどうしてその手を打ったのかがわからなくなるという。そういうことがあった時点で、その分野ではAIが人間を超えたと判断できる」とした。
ここから座談会はさらにディープなAI論へと移っていく。