同じところに出かけるのに、ふた通りのルートがある。その際に、どちらの鉄道に乗るか。簡単なようで、難しい問題かもしれない。
一般財団法人運輸政策研究機構が刊行している『数字で見る鉄道2015』によると、JRと私鉄が同じような区間に路線を敷設している箇所は21カ所ある(同書「JR運賃と民鉄運賃の比較」参照)。ほかにも、今ではJRの同社内でのライバル区間や、新幹線と在来線を別々のJRが経営していることにより発生しているライバル関係もある。では、どう乗りこなしていくか。
まずは運賃のちがい
大きくちがうのは、運賃だ。たとえば京王電鉄の新宿~京王八王子では360円、JR東日本の新宿~八王子では474円(ICカードの場合。紙の切符では480円)となっている。品川~横浜では京浜急行は298円(紙では300円)、JRは288円(紙では290円)である。
極端に差がある区間もある。新宿~小田原では、小田急電鉄は874円(紙では880円)、JRは東京~小田原で1,490円(紙でも同額)となっている。
一般にJRのほうが高いが、私鉄のほうが高い場合もある。中部では名鉄名古屋~名鉄岐阜、近鉄名古屋~近鉄四日市、関西では鶴橋~近鉄奈良、難波~和歌山市といったところは、JRの同じような区間よりも私鉄のほうが高くなっている。関東では京浜急行に加え、京成電鉄の京成上野~市川真間の区間がICカードで17円高い。
基本的に、同じような区間に乗るのなら、運賃の安いほうに乗りたい、というのが人情だろう。
どう使い分けるか
しかし、運賃が安いかどうかだけで判断してはいけない。ライバル鉄道は、それぞれに強み・弱みというのがあり、それらを理解しながら乗りこなしていくことが大事だ。
たとえば、新宿~八王子・京王八王子間を見てみよう。運賃は、京王のほうが安い。乗り心地は、線路がまっすぐな区間が長いJR中央線がよい。京王は、府中より京王八王子よりの区間ではダイナミックな走りをする。停車駅の少ない特別快速列車や特急・準特急列車は、京王のほうが多い。ただし、京王の特急・準特急は高尾山口行きもあるため、手前の北野で乗りかえなければならないことも多い。また、京王の特急・準特急は新宿駅から座ることはそれほど難しくないが、JR中央線は東京駅始発のため、座れない可能性も高い。
また駅の立地も見てみよう。新宿でどこに用事があるかということを考えると、西口で用事があるときには京王のほうが便利だ。しかし、東口で用事があるときにはJR中央線のほうが少しばかり楽だ。実際に京王の新宿駅から東口の紀伊國屋書店に向かおうとすると、けっこうな距離を歩かなければならない。
関西だとそれはさらにややこしい。私鉄側のターミナル駅と、JRのターミナル駅は別々の場所にある。JRの大阪駅と京阪電鉄の淀屋橋駅、JRの京都駅と阪急の河原町駅、京阪の三条駅。JRの和歌山駅と、南海電鉄の和歌山市駅。どこにアクセスするかによって、鉄道を使い分けるということが求められている。
福岡県の場合、西日本鉄道のターミナル・西鉄福岡駅とJRのターミナル・博多駅はそれぞれ離れた場所にある。西鉄福岡駅は九州最大の繁華街、天神へのアクセスに便利であり、博多駅はJRの新幹線ネットワークへのアクセスに便利である。福岡空港にも近い。
総合的に見て便利な区間に乗車を
正社員の場合、定期券で通勤電車に乗ることが多い。会社から定期代は出してもらえる。その場合、通勤経路にライバル鉄道が含まれる場合には、単純に安いか高いかだけではなく、自分にとって使いやすいルートを使用し、その金額を会社に申請しよう。
新宿勤務の場合は、京王線の新宿駅のほうが会社に近いのか、それともJRを利用したほうが便利なのか、ということだ。駅から会社までの徒歩経路を考えると、どちらのライバル鉄道を利用したほうが、歩かなくてすむのか。どの鉄道が安いかだけではなく、駅まで、あるいは駅からどう動くのかまで考えて、どちらのライバル鉄道に乗るかを考えよう。
著者プロフィール: 小林拓矢
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学在学時は鉄道研究会 に在籍。鉄道、時事社会その他についてウェブや雑誌・ムックに執筆。単著『早大を出 た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に共著者として参加。
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