モバイル市場における競争環境が、緩やかにではあるが変わりつつある。実質0円による販売モデルの廃止、またMVNOの台頭は、今後のKDDIの事業にどの程度の影響をおよぼしていくのだろうか。都内で12日に開催されたKDDI 2016年3月期決算発表会にて、同社 田中孝司社長が記者団の質問に回答した。

2016年3月期決算発表会にて記者団の質問に回答する、KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

タスクフォースの影響

携帯電話料金を引き下げるという名目のもと、総務省の主導で行われた有識者会議(タスクフォース)。これを受けて「実質0円」や「キャッシュバック」をともなう販売が事実上の禁止となった。KDDIでもこれに従い、今年2月からこうした販売方法を取りやめている。記者団から、この影響について質問があがった。

KDDIでは、影響の一端はスマートフォンの販売台数に出ると予想。au端末販売台数は、2016年3月期の通期で938万台(うちスマートフォンは762万台)だったが、2017年3月期は890万台(うちスマートフォンは730万台)と、前年同期比で30万台超減少すると見積もっている。田中社長は「だんだん売れなくなるのではないか。もっとも機種変更による需要があるので、大幅な落ち込みは避けられるかも知れない」と説明した。

ただ、純増数には大きな影響が出そうだという。「今回の議論の結果を受けて、お客様が動く要素がなくなる」と同氏。新しい端末が発売されても「実質0円」や「キャッシュバック」をともなう販売ができないため、利用者の間では買い控えの傾向が強まる。MNP(携帯電話番号ポータビリティ)による転出・転入の動きも止まってしまう。純増数を伸ばす大きな要因であるMNPの動きが鈍化することは、大きな痛手となるに違いない。

また、今年2月に行われた第3四半期決算発表会で、田中社長は「auショップへの来店者が減る。これも頭の痛い問題」と話していた。KDDIでは、全国に展開するauショップを”顧客との重要なタッチポイント(接点)”と捉え、様々なセールスを行っている。このため、端末の買い控えの傾向が強まると、auショップでビジネスできなくなってしまうという理屈だ。この件に関して聞かれると、田中社長は「auショップを活性化できるよう、色々なことをやっていく。これについては別の機会でお話したいので、楽しみにしていただければ。auショップに来ていただけるような、おもてなしを考えている」と回答。どうやら”秘策”があるようだ。

囲み取材で、記者団の質問に回答する田中社長

MVNOの影響

MNPで新規ユーザーを獲得できなくなったことに加え、MVNOへ利用者が流出する懸念も大きくなっている。「MVNOさんが、かなりの速度で出てきている。KDDIのグループ傘下にはUQ mobileがあるが、少し出遅れた感がある。料金競争など、このMVNOの領域でも積極的に頑張らないと。今後の課題と認識している」と田中社長。

現在、市場で展開しているMVNO事業者のほとんどは、NTTドコモの回線を利用している。このため、例えば大手3キャリアの利用者がMVNOに流れた場合、ドコモのひとり勝ちになる可能性もある。田中社長は「MVNOでも一定のシェアをとらないと、回線の数を増やせない。市場がドコモさんに寄っていく。UQさん頑張ってよ、という話になるんですが」と苦笑いだった。

顧客獲得競争、利用料金の値下げ競争が激しくなりそうな今後のモバイル市場。田中社長は「プラスアルファの価値観や仕組みを提案しないと、この流れは止まらないという認識でいる」と厳しい表情で話していた。