一方で、ファンが付く存在を必要としているのは、決してプラットフォーマーだけではない。2016年より、スーパーGT参加チーム「LEXUS TEAM TOM'S」のスポンサーとなったKDDIもその1つだ。
KDDIの渉外・コミュニケーション統括本部 コミュニケーション本部 宣伝部で部長を務める矢野 絹子さんは「スポーツチームのファンには、『好きなものはとても好き』という深い愛情を注ぐことのできる人たちが多くいます」と話す。
同社は誰もが知る通信事業者であるものの、当然、新規ユーザー、NTTドコモやソフトバンクという競合からのユーザー獲得を目指し、宣伝・広告は行う必要がある。2015年よりスタートした三太郎CMが好調なKDDIだが、スポーツを含めてさまざまなスポンサードを通しての宣伝も行っている。
一方で「スポーツに関する取り組みは遅れている」と矢野氏も認めるように、競合他社と比較して、その出足は非常に遅かった。ソフトバンクは言わずもがな、2005年の福岡ダイエーホークス買収時からスポーツ分野に積極的で、オーナー社長である孫 正義氏が大のスポーツ好きということもあり、プロバスケットボール「B.LEAGUE」や、国際ヨットレース「アメリカズカップ」の日本チームのサポートなど、単なるスポンサーの枠組みを超えた支援を行っている。
今回、KDDIが国内で行われるモータースポーツの最高峰「スーパーGT」のチームスポンサーとなったのは、「(遅れている分野への)すべての答え、というわけではありませんが、答えのうちの1つ」(矢野さん)だという。スーパーGTは、特にファンと選手(チーム)の距離が近く、レース直前/直後という他スポーツならあまり考えられないようなタイミングで、かなりの時間を割いてファンとの交流を、コース上、ピット前で行っている。
訪れるファンも、車という巨大産業ならではの多様さで、華となるキャンペーンガールを撮影するだけの人から、レーシングカーの一部のパーツをアップにして撮影する人、エンジニアにどういうセッティングなのかと尋ねる人、ドライバーと交流を求める人など、自動車ファンではない筆者からすると「そこに注目するんだ」という驚きを抱く光景が広がっていた。そして、矢野さんもまた、そうした環境に「学ぶところがある」と話した。
「レーシングスポーツには、学ぶところがたくさんあります。こうして最初から最後まで、ファンとの接点を持つ場があることは、本当にすごい。直接現場で声を聞けることは貴重であると改めて感じます」(矢野さん)
広告に求められがちな費用対効果については「出だしは正直、測定は難しい」と苦笑いしつつも、「興味を持っていただくことが重要」と話すように、好きなモノに対してスポンサーをしている、というポジションから、徐々に興味を持ってもらうという流れを、大切にしたいようだ。
取材当日の富士スピードウェイにおけるスーパーGT第2戦には、KDDI代表取締役社長 田中 孝司氏も登場。スポンサードしたことについては「継続的にやっていきたいと考えている。最速にこだわって頑張ってほしい」として、チームへの期待感を口にした。コネクティッドカーなど、車と通信の融合は業界の注目トピックスだが、その点については記者からの質問をはぐらかしつつ、「一般車にもIoTの時代が来るので、そこで何かできれば」と笑顔で話していた。