2016年5月6日に発表された米4月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比16.0万人増と7カ月ぶりの低い伸びとなり、失業率も前月から横ばいの5.0%にとどまった。いずれも事前予想(20.0万人増、4.9%)に届かず冴えない結果となった事で、市場には米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月の理事会でも利上げを見送るとの見方が広がった。なお、昨年の終盤以降は、雇用者の増加ペースが鈍化するとともに失業率の低下が一服しており、米雇用情勢が勢いを失い始めたようにも見える。
ただ、現在の米雇用環境は「完全雇用」に近いとされており、雇用者の増加ペース鈍化はある意味自然な流れだろう。歴史的低水準にある失業率についても、低下が一服するのはやむを得ない面がある。そうした中、今回の雇用統計では、時間当たり賃金(平均時給)が25.53ドルと前月比で0.3%増加、前年比では2.5%増と堅調な伸びを示した点に注目すべきだろう。雇用者数の伸び鈍化や失業率の下げ渋りとは対照的に、時間当たり賃金は緩やかながらも着実に増加基調を辿っている事がわかる。
今回の米4月雇用統計については、6月利上げの可能性を高めるほどの強い内容ではなかった事は確かだが、賃金の上昇が加速を始めた兆候が見られる点において、6月利上げの可能性が潰れるほどの弱い内容でもなかったと言えるだろう。
実際に、ダドリーNY連銀総裁兼FOMC副議長は米4月雇用統計の発表後に「年内2回の利上げ見通しは依然として妥当な予想」との見解を示している。利上げに慎重なハト派に属するとされる同氏の発言としては、やや意外感をもって市場に受け止められたが、利上げペースに関して過度に悲観的な市場の見方をけん制する狙いがあったと見られる。6月3日に発表される米5月雇用統計の結果次第では、6月会合(14~15日)での利上げもあり得るというFOMCからのメッセージと解釈できる。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya