NVIDIAが社運を賭けて力を入れるAI

今回のGTC 2016の主要テーマはAIである。2015年からの1年間はAIに関しては、驚くべき発表が相次いだ。Imagenetの画像認識チャレンジでは150層を超える超ディープなニューラルネットを使うMicrosoftが優勝した。これらのネットは、すでに人間より高い認識精度を実現している。カリフォルニア大バークレイ校が開発したロボット「Brett」は人間が学ぶように、強化学習で部品の組み立て方を習得することができることを示した。Baiduの「Deep Speech 2」は1つのネットワークで英語と中国語を理解でき、両言語間の翻訳ができることを示した。そして、Google DeepmindのAlphaGoは、正式な碁の試合で世界トップレベルのプロ棋士を4勝1敗で下した。これらはいずれも驚くべき成果である。

この1年には、ディープラーニングの驚くべき成果の発表が相次いだ

従来のコンピュータビジョンでは、画像処理の専門家が色々なアルゴリズムを組み合わせて認識を行っていたが、認識プログラムの開発は非常に時間のかかる作業であった。これに対してディープラーニングを使い、大量のデータを使って学習を行わせると、学習には高い計算能力を必要とするが、より簡単に認識が可能になる。ILSVRCのコンペでは、2012年にトロント大のHinton教授のグループがディープラーニングを使って良い結果(右端の図のオレンジのドット)を示し、その結果、2013年には大部分の応募がディープラーニングを使うようになり、2014年以降はディープラーニング一色になってしまった。

ディープラーニングによる画像認識は、従来のCV(コンピュータビジョン)とはまったく異なる計算モデルを使っており、コンピュータが処理すべき計算のモデルが変わってきていると言える。

画像認識はディープラーニング一色で、従来のCVは使われなくなってきている。つまり、計算のモデルが変ってしまった

ビッグデータをGPUで処理して認識を行うという現代AI界のビッグバンから、先進的な大学による研究の段階を経て、コアテクノロジやCaffeやTheanoなどのディープラーニング用のフレームワークがオープンに使えるようになり、また、NVIDIAのGPUとcuDNNが実行速度を改善してきた。

そして、IBMのWatsonやAmazonのWeb ServiceなどAIをプラットフォームとして提供する動きが出てきた。また、ディープラーニングを使ってビジネスを展開しようとする多くのスタートアップ企業が出てきた。

現在では、AlibabaやBaiduなどの大手ネット企業、Ford、BMWなどの自動車メーカーなどの大企業がAIに強い関心を示し、開発に乗り出すという大きな広がりを見せている。

一部の研究機関の研究をビッグバンとして始まったディープラーニングの宇宙は、今や既存の大手企業まで巻き込んで、急速な膨張を見せている

調査会社によると、ディープラーニング関連の売り上げは2024年には1000億ドルを超え、2015年から2024年の10年間の累計の売り上げは5000億ドルに達するという。利用分野別にみると、広告サービスのテクノロジが1位、投資関係が2位で、この2分野で50%を超える。そして、メディア、石油採掘、製造一般などの分野がそれぞれ10%程度となっている。

2015年から2024年の10年間のAI関係の累計の売り上げは5000億ドルに達すると予測されている

NVIDIAはディープラーニング用に幅広いGPUを品揃え

NVIDIAのGPUは多くのハイパースケールのクラウドサービスに使われているとのことで、Alibabaをはじめとして21社のロゴが並んでいる。左の写真はTesla M40と、1Uのサーバに収容でき実装密度の高いTesla M4 GPUである。

NVIDIA GPUをクラウドサービスに使っている21社のロゴが並ぶ

M4(左)とM40(右)を壇上で掲げて、M40は業界最高性能、M4は電力効率最高とアピールするJen-Hsun Huang CEO

そして、新しいフラグシップのTesla P100を発表した。ただし、P100については以前のレポートで詳しく紹介したので、ここでは軽く触れるだけにとどめる。

新たにフラグシップとなるTesla P100を発表

そして、Tesla P100を搭載したサーバが2017年の第1四半期にIBM、HPE、DELL、CRAYなどから発表されることをプレアナウンスした。

Tesla P100搭載のサーバは、2017年の第1四半期にIBM、HPE、DELL、CRAYなどから発表される

NVIDIAはGPUで加速化されたディープラーニングは、クラウドでも大企業でも使われ、すべての市場でディープラーニングが使われる事になって行くと見ている。

GPUで加速化されたディープラーニングは、あらゆる市場で使われるようになって行く

ここで、Jen-Hsun Huang CEOはBaiduのSenior ResearcherのBryant Catanzaro氏を登壇させて、BaiduのDeep Speechが、PascalでNVLINKがサポートされるとどれだけ恩恵を受けるかを説明させた。

BaiduのCatanzaro氏はNVLINKのメリットについて述べた

続いて、GoogleのフレームワークであるTensorFlowのテクニカルリード兼マネージャのRajat Monga氏が登壇し、TensorFlowがGoogleのニューラルネットワークの開発者の効率を大きく改善しており、TensorFlowを使う開発プロジェクトが急増していると述べた。

GoogleのTensorFlowの開発マネージャのRajat Monga氏は、Google内部ではTensorFlowを使うプロジェクトが急増していると述べた

そして、Jen-Hsun Huang CEOは、これも新製品であるディープラーニング向けのDGX-1と呼ぶ開発システムを発表した。P100を8台搭載し、ディープラーニングの場合はこれでも良いとされる半精度のFP16の演算であるが、170TFlopsという高性能で、12万9000ドルというのはお買い得な値段である。なお、DGX-1については別のレポートでカバーしたので詳細は省略する。

Tesla P100 GPUを8個搭載するディープラーニング向けの開発システムDGX-1

そして、Jen-Hsun Huang CEOは、ディープラーニング立ち上げたパイオニアの研究機関として、カリフォルニア大バークレイ校、カーネギーメロン大など11校の名前をあげて敬意を表した。

Jen-Hsun Huang CEOは、AI研究のパイオニアとして11校の名前をあげて敬意を表した