直接対決は2019年にも

しかし、ブルー・オリジンもまた、ファルコン9のように人工衛星を打ち上げることができる大型ロケットの開発を進めている。詳しい性能も、名前さえもまだ明らかになっていないが、有人宇宙船を軌道まで飛ばせるほどに大きく、強力な性能をもっており、そしてもちろん再使用が可能なロケットになるという。初打ち上げは2019年を見込んでおり、すでにロケットエンジンの開発などが始まっている。

一方のスペースXも、先日船での回収に成功したファルコン9を点検、試験し、早ければ今年5月か6月ごろにも再使用したいという見通しを明らかにしている。実現すれば、スペースXはブルー・オリジンに対して一歩先んじることができる上に、2019年までは独走を続けられることになる。

もっとも、後発であるブルー・オリジンは、これからロケットを再使用するにあたって、スペースXが経験するであろう苦労を、情報として仕入れることができ、あらかじめある程度の対策を打つこともできる。また、後述するようにロケットの再使用はうまくいかない可能性もあり、スペースXの動向を見て、再使用そのものの是非や、あるいは再使用するにしてもそのやり方など、方針を変えられるという利点もあるだろう。

2019年以降、再使用ロケットをめぐった、両者の直接対決が見られることになるかもしれない。

ブルー・オリジンが開発中の、人工衛星を打ち上げられる大型ロケット (C) Blue Origin

昨年末に地上に着陸したファルコン9と、先日船に降り立ったファルコン9 (C) SpaceX/Elon Musk

再使用でロケットは本当に安くなるのか

ロケットを再使用するということは、つまりは旅客機のように運用するということである。多くの旅客機の1機あたりの建造費は100~200億円で、1回の運航にかかるコスト(燃料費や空港での点検、整備など)は数百万円、設計寿命は20年以上、その間に総飛行時間が6万時間、離着陸回数は2万回以上をこなす。

さすがにロケットをまったく同じ感覚で飛ばすのは難しいだろうが、たとえばスペースXは「打ち上げコストを従来の100分の1にする」という目標を掲げている。今のファルコン9の価格は約70億円ほどなので、約7000万円になる計算である(もっとも、コストと価格は同じではない)。100分の1でも、あるいは10分の1でも、実現すれば宇宙はうんと身近なところになるだろう。

しかし、本当に再使用で、ロケットのコストは安くなるのだろうか。

たとえば、よく高い高いと批判されたスペースシャトルだが、オービターは建造費だけで約2000億円もかかったものの、再使用のための点検や整備、そしてブースターなどをすべて含めた1回の打ち上げコストは最大で1000億円ほどだった。これを安いと表現するのは気が引けるが、少なくとも建造費は超えていない。

ただし、オービターは合計5機しか造られておらず、それぞれの仕様や建造時期も違うため、量産されたとは言いがたいということに注意が必要である。一般的に、仕様や部品を規格化し、大量生産を行えるようにすれば、生産の効率が上がり、また品質も安定し、結果的に生産にかかるコストを下げることができる。その代表例が自動車で、ロケットの世界でもロシアや中国がこの方法によって使い捨てながら安価なロケットを供給している。

つまりファルコン9を年間何十機も量産するのと、年に数機しか造らず機体を使い回すのとでは、どちらが安くなるのか、あるいはその分かれ目が何回目の打ち上げから発生するのか、という数字が出てこなければ、ロケットの再使用が本当に安くなるのか、あるいはならないのか、ということは判断できない。

とくに、再使用には信頼性の低下という問題がかかわってくる。ロケットという乗り物は強大なエネルギーでもって、ものの数分で地上から宇宙まで駆け上がる。機体のあちこちに大きな負担がかかる上に、前述のように軽量化のためにそれほど頑丈には造れない。だから現在のロケットは、基本的には1回の打ち上げにさえ耐えれば問題ない、という造りになっている。

そのような”貧弱”な機体を何度も再使用するとなると、使い込めば使い込むほど、どこかが壊れる心配が出てくる。いくら安いロケットでも頻繁に失敗するようでは意味が無いし、そのために整備費がかさんで、結局高価なロケットになってしまっても意味が無い。

ロケットの再使用が本当に安くなるのか、そして次世代のロケットのトレンドになるのかはわからないが、ブルー・オリジンとスペースXは楽観的な態度を取り続けている。

たとえばブルー・オリジンはすでに2回の再使用によって3回の打ち上げ、着陸をさせており、ロケットの再使用に関して、たとえば1回の飛行で機体がどれだけの負荷がかかり、整備が必要なのかどうか、必要ならどの程度か、といったデータをもっている。

またスペースXも、すでに昨年末に着陸した機体を分解し、詳しく分析している。過去には、高度は最大1000mほどではあるものの、実験機を何度も飛ばしてデータを得てもいる。

そうした、彼らの持つデータが具体的にどういうものか明らかにされていないが、両者が今もロケットの再使用という未来を諦めず邁進を続けているということは、少なくとも今のところは、楽観的になれるほどの明るいデータが出ているということだろう。

実際ブルー・オリジンでは、今後もニュー・シェパードの試験飛行を繰り返し、2年以内にも同ロケットを使った宇宙観光や宇宙実験をビジネスとして展開したいとしている。また、すでに同社の工場では、複数のニュー・シェパードの建造が進んでいることも明らかにされている。

またスペースXのマスク氏も、今回のファルコン9の打ち上げ・回収成功後の記者会見で「ロケットの再使用は10回から20回は耐えられるだろう。小さな改修を行えば、100回程度にまで耐えられると思う」と語っている。

再使用でロケットは本当に安くなるのか。早ければ今年中にも、その答えがわかることになるかもしれない。

宇宙空間に到達したニュー・シェパード (C) Blue Origin

ファルコン9の打ち上げ (C)SpaceX

【参考】

・Blue Origin | Launch. Land. Repeat.
 https://www.blueorigin.com/news/blog/launch-land-repeat
・SpaceX return Dragon to space as Falcon 9 nails ASDS landing | NASASpaceFlight.com
 https://www.nasaspaceflight.com/2016/04/spacex-dragon-rtf-falcon9-launch/
・Falcon 9 FT – Rockets
 http://spaceflight101.com/spacerockets/falcon-9-ft/