社会人になって初めて受け取る給与明細。聞いていた給料と実際に受け取る給料の違いに驚く人もいることでしょう。いわゆる「額面」と「手取り」。給料から様々なものが差し引かれるため、知っておかないと生活のやりくりにも支障が出てきます。給与明細の例を元に、確認していきましょう。

給与から差し引かれるのは、「税金」と「社会保険」

給料は、基本給と各種手当の合計で、これを「額面」と呼ぶことがあります。基本給はすべての計算の元になるもので、残業手当(時間外手当)やボーナスも基本給がベースとなります。各種手当は、勤務先によって異なり、通勤手当、住宅手当、家族手当などが一般的ですが、中には資格手当など業務上必要な資格を取得した場合に支給されるものもありますので、自分の勤務先にはどんな手当があるのか確認しておくといいでしょう。

問題は、この支給額から、何がいくら差し引かれるのかということ。大きく分けて、「税金」と「社会保険」の2つで、給与明細には「控除」という名目でまとめられています。

それぞれ、給与明細の例に沿って、説明していきましょう。

給与明細の例

差し引かれる額が多い社会保障関連

思ったより手取りが少ないと思うのは、社会保障に関連する額が多いからです。主なものに健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料があります。これに40歳になると介護保険料が加わります。それぞれいくらぐらい引かれるのでしょうか。

1) 健康保険料
勤務先によって異なります。企業独自で運営している健康保険組合もありますし、業界でまとまって作られている健康保険組合もあります。中小企業などは協会けんぽ、公務員であれば共済組合に加入します。例では東京の協会けんぽの料率で計算していますが、基本給に各種手当を加えた支給額(標準報酬月額)に、料率9.96%をかけ保険料を出しますが、その半分は会社負担となります。

2) 介護保険料
新入社員は、差し引かれません。40歳になると介護保険の被保険者となるため、保険料が天引きされます

3) 厚生年金保険料
勤務先が厚生年金を適用していれば、厚生年金の被保険者となります。保険料は、健康保険同様に、支給額に17.828%をかけ算出します。同様に、半分は会社負担となります。勤務先が厚生年金に加入していない、または本人が加入の条件を満たしていない場合は、国民年金保険に加入することになります。

4) 雇用保険
労働者の生活や雇用の安定のための制度で、病気・ケガなので長期に休む場合は傷病手当金が受給でき、失業時には失業手当が受けられます。料率は0.05%です。

ここまでが社会保険で控除されるもの。例では合計3万4,000円あまりが天引きされています。しかし、いずれも、自分自身への保障といえるもので、税金とは意味合いが異なる点を理解しましょう。ちなみに、初任給では、雇用保険のみが差し引かれ、健康保険と厚生年金は5月から控除されます。

税金は所得税と住民税。住民税は2年目から

もうひとつ給与から差し引かれるものは「税金」です。会社員は毎月の給与から天引きで「源泉徴収」されます。

1) 所得税
本来、所得税は1月1日から12月31日までの所得に対して課税されるものですが、会社員の場合は、年間所得を推定して、毎月の給料から天引きされます。12月に年間所得が確定する際に「年末調整」を行い、税金の過不足の清算をします。

2) 住民税
住民税は、前年の所得によって税額が決定します。そのため1年目は元となる所得がないため、住民税はありません。1年目の所得に基づいた住民税が2年目に差し引かれるので、実は、新社会人は2年目の方が手取りが少なくなる可能性がある点も理解しておきましょう。

このほかに、給与から差し引かれるものには、労働組合費など勤務先独自で徴収するものがあります。また、財形貯蓄制度を勤務先が導入していて、利用していれば、毎月の給与から決まった額が天引きで貯蓄されます。

このように、基本的な控除額だけで、おおよそ支給額の13%程度が天引きされた額が手取りとなります。いずれも、給与の額が変われば控除額も変わりますし、保険料率が変わることもあります。確定申告をしない会社員は税や社会保険にいくら払っているか、あまり意識しないのですが、給与明細をもらったら、必ず目を通し、自分できちんと理解することが大切です。


伊藤加奈子
マネーエディター&ライター。法政大学卒。1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。不動産・住宅系雑誌の編集を経て、マネー誌『あるじゃん』副編集長、『あるじゃんMOOK』編集長を歴任。2003年独立後、ライフスタイル誌の創刊、マネー誌の編集アドバイザーとして活動。2013年沖縄移住を機にWEBメディアを中心にマネー記事の執筆活動をメインに行う。2級FP技能士。