なぜ日本人はマリーナベイ・サンズが好きなのか、タナシェヴィッチCEOに直撃

3棟の超高層ビルの上に連なって広がる空中庭園。その中できらめくインフィニティプールは、シンガポールの代名詞的な存在として世界中の人を魅了している。このIR(統合型リゾート)「マリーナベイ・サンズ」に宿泊する外国人は、実は日本人が最多ということをご存知だろうか。そこで今回、マリーナベイ・サンズ社長兼CEOのジョージ・タナシェヴィッチ氏に、なぜ日本人はマリーナベイ・サンズに惹かれるのかうかがった。

SMAP効果で日本人の憧れの地に

タナシェヴィッチCEOによると、過去5年間の外国人宿泊客のうち、日本人は最多の17～22%を占めているという。特に2015年は円安の影響で17%に落ち込んだものの、それでも世界第1位は明け渡さなかった。マリーナベイ・サンズが広く日本人に認知されるようになったのは、2011年にSMAPが出演するCMに使われたことの影響も大きいとタナシェヴィッチCEOは言う。

「個性的な建物や屋上のインフィニティプールは、日本の方々にいつか行ってみたい場所として印象に残るものでしょうし、マリーナベイ・サンズは総合リゾートとして、レジャーにもビジネスにも広く活用されています。なにより、清潔で秩序正しく安心して観光ができるという、シンガポール全体の魅力は大きいです。日本とシンガポールは今年、国交50周年を迎えますが、これは重要なマイルストーンだと感じています。今まで温かい関係を築いてこれたその上に、私たちのビジネスも成り立っています」(タナシェヴィッチCEO)。

マリーナベイ・サンズと言うと、アイコニックな造形とインフィニティプールに目がいくが、施設内には客室やスパやレストランの他、ショッピングモールや劇場、シアター、アートサイエンス・ミュージアム、カジノ、大型MICE施設など、レジャーのみならずビジネスとしての需要にも応える空間が広がっている。3つのタワーからなるホテルにはスイートを含む2,560もの客室があり、最上階である57階に広がる空中庭園「サンズ・スカイパーク」のインフィニティプールは、宿泊者だけが利用できるようになっている。

ラスベガスのカジノとはまた別の空間を

シンガポール政府観光局によると、2015年にシンガポールを訪れた日本人は約78万9,000人であり、消費額においても2014年に比べて6%増加するなど、外国人旅行者の中で日本人は最もシンガポール国内での消費が盛んな傾向があるという。こうした状況の中で、マリーナベイ・サンズ内における日本人を意識したサービスとしては、施設内に日本人スタッフ約60人を在籍させていることや、世界的に知られている和久田哲也シェフと山本秀正シェフによる、日本人の味覚に合うレストランを備えていることなどが挙げられる。

また、マリーナベイ・サンズを運営しているラスベガス・サンズは、米・ラスベガスに「ザ・ベネチアン・サンズ」や「ザ・パラッツオ・サンズ」、マカオに「サンズ・コタイ・セントラル」や「ザ・ベネチアン・マカオ」などを抱えている。その中でもマリーナベイ・サンズは、IRのひとつの要素であるカジノの位置づけに違いがある。

IRにおいてカジノは通常、総面積の5%以下とされているが、ラスベガスではエントランスから客室までの間、必ずカジノを通るようなデザインになっている。一方、マリーナベイ・サンズでは、カジノは総面積の3%程度にとどめられており、誰もが目にして触れられる場所には設けられていない。

「カジノをご利用される方にとってアクセスしやすい場所にはありますが、カジノを見たくない方にも配慮した空間になっています。世界のお客さまを見てみるとカジノを楽しんでいらっしゃる方が多いですが、日本のお客さまはそれ以外のエンターテイメントの充実を重視されています」と、タナシェヴィッチCEOは言う。

では、日本人はシンガポールにて、具体的にどのような旅行を楽しんでいるのだろうか。

「日本のお客さまはシンガポールにツアーグループで訪れたり、予定を立てて計画的に街を歩きまわったりしている傾向があります。マリーナベイ・サンズへの宿泊は1泊だけという人が多いですが、インフィニティプールのあるサンズ・スカイパークやレストラン、スパ、劇場などとさまざまなエンターテインメントがあるIRは、ひとり旅にもファミリー旅にも、さまざまにカスタマイズが可能です。また、国内の中でも特にラグジュアリー系がそろったショッピングモールには250以上のショップがそろっているので、ゆっくり買い物を楽しみたい人にもオススメです」(タナシェヴィッチCEO)。

2010年にマリーナベイ・サンズが開業される際、周辺ホテルからは2,560客室の大型ホテルができることで、供給過多による客室単価の下落を危惧する声があったとタナシェヴィッチCEOは話す。しかし、シンガポール政府観光局によると、シンガポールを訪れる外国人観光客は2009年に約970万人、2015年には約1,520万人に増加するなど、マリーナベイ・サンズ開業前後で変化が起き、周辺のホテルにもより多くの宿泊客を呼び寄せることにつながったのではとタナシェヴィッチCEOは言う。なお、2009年以降増加傾向であった外国人観光客は、2013年の約1,560万人をピークに2014年には約1,510万人へ減少し、2015年に約1,520万人へと持ち直した。

初となる日本市場向けのプロモーションも

シンガポールの外交樹立50周年となる2016年は、両国はツーリズムと文化面においてより一層関係を深めるべく、さまざまなコラボレーションが企画されている。その中でマリーナベイ・サンズも初となる日本市場に向けたプロモーション「Never Settle(とどまることを知らない)」キャンペーンを、日本人にもよく知られている世界的スターであるデビッド・ベッカム氏を起用して実施。ベッカム氏の目線でマリーナベイ・サンズが提供するさまざまサービスを、TVや新聞、雑誌、オンラインなど多媒体で同時展開していく。

また、4月1日～9月30日(予約受付は～6月30日)限定で、オリジナルパッケージも展開する。パッケージは、デラックスルーム・デラックスビュールーム・プレミアルーム・プレミアビュールームの各宿泊に、インフィニティプールに面するレストラン「Spago」での朝食や各種サービスの特典がセットになったもので、公式ウェブサイト内特設ページで予約を受け付けている。

タナシェヴィッチCEOは、「高まる需要に応えるべく、日本からのお客さまにも満足いただけるような新しいプログラムやエンターテイメントの開発、日本のお客さま向けの顧客サービスなど、多角的なサービス向上に努めています。ブランド大使を務めるデビッド・ベッカムを起用したNever Settleキャンペーンでは、こうした進化を続けるマリーナベイ・サンズの様々な魅力をお伝えしていきます」とコメントしている。特に2016年の夏から秋にかけて、"何か大きなコト"を計画していると言う。今回の50周年に合わせて狙う日本市場の施策に注目したい。