丸善・丸の内本店はこのほど、『ミキティが東大教授に聞いた赤ちゃんのなぜ? 』の刊行を記念したトークイベントを開催。赤ちゃんを対象に認知科学を研究する「赤ちゃん学」の専門家・東京大学大学院の開一夫教授と、2児の母でありタレントの藤本美貴さんが、赤ちゃんに関する疑問や悩みについて語った。
「夜泣きを放っておくと諦めの早い子に育つ」は本当か
会場: 子どもが夜泣きをした際に、放っておいた方がいいという説を聞いたことがあります。また、そんなことをすると、諦めの早い子に育ってしまうという人もいます。どちらがよいのでしょうか。
開教授(以下、敬省略): 日本は添い寝をするお母さんが多いですよね。一方でイギリスに行くと、うまれた赤ちゃんはお母さんとは別の部屋で寝ます。そうすると、日本のお母さんは赤ちゃんが泣くとすぐに気づきますが、イギリスではすぐに気づかないということが起こります。だからといって、イギリス人の子どもが諦めの早い子になっているかというとそうでもないです。その点で、「夜泣きの対応」と「諦めの早い子に育つ」ということは因果関係がないのではと思います。
一方で、赤ちゃんがどの程度泣いたところで、親がそれに気づくかというのは、実はまだわからないことが多いです。研究では寝ている間、赤ちゃんがぐずりだしたときに、親がどのようなタイミングで起きるかというのを、センサーをつけてデータをとり、蓄積しています。
藤本さん(以下、敬省略): 夜泣きを放っておいても寝られる子、放っておくと寝られない子がいますよね。うちも男の子と女の子がいますが、兄弟によって夜泣きの回数やその後ちゃんと寝られるかというのは全然違います。赤ちゃんによって、対応を変えていくのがいいのかもしれませんね。
「いないいないばぁ」はコミュニケーションの本質を突いた遊び
藤本: 家にいてできる実験・遊びみたいなものは何かありますか。
開: 赤ちゃんが鏡の仕組みを理解しているかどうか、確かめる方法がありますよ。赤ちゃんを鏡に映す前に、赤ちゃんの頭にステッカーを貼るのです。もし鏡の仕組みを理解していれば、鏡に顔を映したときに、鏡ではなくて自分の頭にあるステッカーをとります。理解していないと、鏡の方をとりに行こうとするといった具合です。これはいまだに研究としてよく実験で使われます。
人間では1歳半くらいから、鏡の仕組みを理解すると言われています。これが、人間だけではないことがわかってきていて、ゴリラやチンパンジー、像でも鏡の役割を認識できるそうです。
藤本: 「いないいないばぁ」もよくするのですが、この遊びはどのように分析できますか。
開: これはコミュニケーションの遊びだと思っています。「いないいないばぁ」は相手が自分のことを見ていないときに「いないいない」と注意をひき、そのあと「ばぁ」と言いますよね。そして、赤ちゃんが笑う。これって会話を開始するときの流れとほぼ一緒です。短い間ですが、「やりとりのきっかけ」と「中身」と「結果」がフィードバックされるという意味で深いのです。
言葉は違いますが、同じような遊びはフランスにもタイにもあります。世界で「いないいないばぁ」のような遊びがない場所はないと言われているくらいです。チンパンジーでもそのような遊びをするということがわかっていて、けっこう本質的な遊びなのではないかと思っています。
おしゃぶりをすると言葉が遅くなる!?
藤本: おしゃぶりは将来とれにくいし、指しゃぶりのほうがいいと聞いたこともあるのですが、実際はどうですか。
開: 基本的にはおしゃぶりがとれなくなるということはなく、心配する必要はありません。現に、大人になっておしゃぶりをしている人はいませんよね。欧米に行くとほとんどの赤ちゃんがおしゃぶりをしていますが、おしゃぶりはとれています。気にする必要はないと思います。また、おしゃぶりをしていると言葉が遅くなるという説もあるようですが、これも誤りです。おしゃぶりを1日中しているということはありませんよね。反対におしゃぶりを外したからといって言葉が早くなるということもありません。
会場: 赤ちゃんの右脳教育に効果的なツールや勉強方法はありますか。
開: 右脳、左脳の話はよく聞くことがあると思うのですが、基本的に「右脳だけ鍛える」ということはできません。右脳だけにこだわる必要はなくて、バランスが重要です。例えば左脳の領域は言語処理、右脳の領域は感情を処理するといったことが言われますが、左脳だけで言語を処理しているわけではないし、右脳だけで絵を描いているわけではないのです。
右脳を鍛える方法としては、左視野にだけ物を置くとか、左手を使うといった方法があります。しかし、小さな頃からそのようなトレーニングをしていいかという点においては、私は疑問に思います。右脳とか左脳とかだけをとりあげるのは、ナンセンスなのではないでしょうか。