東京地下鉄(以下、東京メトロ)は東京都江東区の新木場に、「総合研修訓練センター」という施設を開設、2016年4月から稼働を開始する。以前から、中野富士見町などに研修・訓練のための施設があったが、それらを集約するとともに設備を大幅に充実させたもので、投じられた費用は約200億円という。今回、取材の機会を得たので、この施設の詳細を紹介したい。
前編では、同施設の概要を説明したので、後編は写真を中心に各施設を見ていこう。
ステップアップステーションセンター
ステップアップステーションセンターとは、摸擬駅施設のことだ。駅務に関わる学習や訓練を行うための施設で、自動券売機・駅事務室・自動改札機などで構成する施設一式が、2組設けられている。
自動改札機。動作状況や旅客の通過状況を見ている必要があるし、切符が詰まるようなトラブルがあれば対処する必要があるから、これも訓練は欠かせない。もちろん、通常型だけでなく、通路幅が広い車椅子対応型の用意もある |
遅延情報を表示するパネルも、本物と同じものが置かれている |
車椅子の用意もあった。誰かが「要介助者」の役を演じることで、介助する側とされる側と、両方の立場から訓練を行える。筆者自身が痛感したことだが、実際に車椅子に乗って移動してみないと、車椅子を使う人の事情というのはなかなかわからないものだ |
訓練線と摸擬駅ホーム
ステップアップステーションセンターにある自動改札機を通ると、訓練線のホームに降りる通路になる。ここも、実際に営業線で使用している設備がそろっている。路線名と駅名が違うだけで、駅名標も各種サイン類も営業線と同じだ。短い3両ホームだけでなく、長い10両ホームもあるので、例えばホームの見通しがどんな具合になるのかを実際に体験できる。
研修棟の直下にある摸擬駅は「センター中央」。そこから北に向かうと「センター東」、南に向かうと「センター西」がある |
摸擬駅のホーム。番線ごとの案内や、出口ごとの最寄り施設表示も、本物の駅にあるものと同じ体裁である |
線路はこんな状況。広告用の電照パネルもちゃんと付いている |
訓練線を走る電車は3両編成。北綾瀬支線で使われている05系だった。行先表示には訓練線の駅名が出るが、これはデータを追加して表示可能にしたのだろう |
信号システムも、営業線で使用しているのと同じ機器を使用しており、それが営業線と同じように動作する。可動式ホーム柵が設けられていることから、定位置停止のために必要となるTASC(Train Automatic Stop-position Controller)の地上子も設置してある |
分岐器をはじめとする軌道設備は、保守点検の訓練に不可欠のもの。どんな構造になっているかを知るだけでなく、どこに注意する必要があるか、どの部分でどのような点検やメンテナンスを必要とするか、といったことも知っておかなければならない。だから、シンプルな片開き分岐器だけでなく、シーサスクロッシングやシングルスリップなど、さまざまな種類の分岐器が設置してあった。
なお、訓練線は複線だが饋電対象になっているのは片方だけで、他方は電気が来ていないそうだ。だから、饋電停止しないとできない作業の訓練をいつでも実施できる。
トンネルと橋梁と高架橋
訓練用トンネルの長さは約180メートルあり、施設の点検・保守、架線やレールの交換、脱線復旧、コンクリート製躯体の打音検査といった訓練を行える。スペースに限りがあるトンネル内での脱線復旧は、通常の地上線より難しそうだから、本物を模したトンネルで訓練することの価値は大きい。
これだけ見ると、営業線のトンネルにいるのと同じに見える。もっとも筆者は、地下鉄の線路に立ち入った経験はないが |
訓練用トンネル内にはX型に交差する分岐器、つまりシーサスクロッシングがあるので、頭上の剛体架線もそれに合わせた配置になっている |
路線によっては高架橋や長大橋梁があるのが、東京メトロの特徴だ。だから、訓練用の高架橋や橋梁も設けてある。長さは短いが、東京メトロで使用している種類すべて、つまりトラス橋、プレートガーダー橋、RC桁高架橋、PC桁高架橋がそろっている |
トンネル内で作業をする際に使用する、電源供給用のコネクタや、外部からトンネルに水が流入するのを阻止するための設備もそろっていた。後者は水防訓練の際に使用するものだ。もちろん、キロ程の表示や曲線部分の諸元表示、分岐器に不可欠な車両接触限界標を初めとする標識類も完備している。