健康診断結果とレセプトの突合によるデータ解析を開始
保健事業の見直しを終えた2013年度、同社が目指す健康経営の取り組みは新たなステップに突入する。ミナケアとの連携で、健康診断結果とレセプトの突合によるデータ解析がスタートしたのだ。
健康診断の外部委託に加えてデータ解析を行うとなると、一見かなりのコスト増に感じるかもしれない。しかし実は受診項目の見直しを行った結果、同社では外部委託とデータ解析を含めて十分賄えるだけの費用が捻出できたそうだ。
そして2014年度には、2回目のデータ解析および先進的な保健事業の実証を含む、厚生労働省の「データヘルス計画モデル事業」を実施。ここでようやく現在知られるデータヘルスの概念が、全健保に周知されたこととなる。
松井氏は「レセプトと健診結果のデータ解析により、リスクのある健康状態の加入者を割り出すだけでなく、そうした加入者へ保健師がダイレクトに保健指導できる体制を構築できたのは大きな強みです。弊社では当初から、社員および家族の健康を守るために保健事業の改革を進めてきたので、まさに"気がついたらデータヘルスの概念そのものだった"という感覚ですね」と語る。
「ポピュレーション・アプローチ」で潜在的なリスクを低減
こうしてデータヘルスの先駆者となった同社では、2015年度からさらなる新ステップとして「ポピュレーション・アプローチ」を中心とした7つの保健事業を開始した。ポピュレーション・アプローチとは、対象者を限定することなく全体へのアプローチでリスク低減を目指す取り組みのこと。「ハイリスク・アプローチ」は高リスク者に絞り込んで対処を行うが、これだけでは健康診断結果などに出ない潜在的なリスク者の増加が避けられないため、ポピュレーション・アプローチで広く健康リスクを抑えようという試みだ。なお、主な生活習慣病のうち「透析/血糖/血圧/脂質」はハイリスク・アプローチ、「肝機能/非肥満/歯科/喫煙」はポピュレーション・アプローチでの対処を行っている。
同社が実施した7つの保健事業のうちポピュレーション・アプローチは、運動促進に向けた「ボールエクササイズ」、食事コントロールに適した「症例別&やせるコツのレシピ配信」、生活習慣データを測定する「デイリーサポート」、予防歯科「新たな歯科予防ソリューション」の4つ。
松井氏は「この中でも従業員から一番好評だったのがボールエクササイズです。できるだけ多くの方に体験してもらうため全22事業所で希望者を募ったところ、被保険者の3割以上となる1025名が参加してくれました」と語る。
医療費総額や診療日数など全体的な改善効果を確認
データヘルスに関して、これだけ先進的な取り組みを行っている企業はまだ少ないが、実際にどれくらいの効果が出ているのだろうか。松井氏に伺ったところ、例えば2013年度データから血糖の高緊急度リスク者(HbA1cが8.5以上)61名をリストアップして追跡したところ、2014年度には2名が保健指導レベル以下に、18名が受診勧奨レベル以下に改善したという。
さらに2012年度から2014年度にかけて、医療費総額は0.98倍(2%減少)、診療日数は0.96倍(4%減少)、レセプト枚数は0.98倍(2%減少)、一人あたり医療費は0.99倍(1%減少)と、全体的な改善効果が見られている。
この結果について秋山氏は「日本全体の医療費が毎年上がっていることに加え、医療費は年齢が高くなるほど上がる傾向にあります。一方弊社では、被保険者の平均年齢が上昇しているにも関わらず、数値的にはわずかですが減少傾向が見られました。開始から数年ながら着実な成果を挙げているといえるでしょう。この取り組みを継続していくことで、絶対に増やさない、たとえわずかでも必ず減らしていくことが大切だと考えています。まだデータヘルスとの因果関係を明確にできる段階ではないですが、弊社としてはあると思いたいですし、今後も続けていきたいですね」と語ってくれた。
世界的に見ても、企業におけるデータヘルスへの取り組みは始まったばかりだが、同社のような存在が今後のデータヘルスを大きく成長させていくことは間違いない。