暮らしから見える金銭感覚 - 「身の丈」と「ポリシィー」
そもそも「お金が貯まる」ということはどのようなことなのでしょうか。貯めるためには、まずは一生懸命働いて収入を確保することが前提となるはずです。そこには「とりあえず働く」よりも「この仕事をライフワークとして取り組む」ことの方が、長期的に考えればより多くの収入を確保できるはずです。
貯めることに関しても、「とりあえず貯める」よりも「人生設計に基づいて必要なときに使うために目的を持って貯める」方が、より確実に貯まるでしょう。つまり「お金が貯まる」ということは人生設計がしっかりしているか否かなのです。それが暮らしぶりにも現れてきます。
収入に対して分不相応の家賃の部屋であったり、調度品であったり、衣類や化粧品にも暮らしぶりが現れます。実家住まいであれば、家賃光熱費は節約でき、お小遣いにより多く回せてブランド品なども買えたりするかもしれません。しかしそれは当人の実力ではありません。実力に応じた暮らしぶりが「貯まる」原点だと思います。
収入アップにはキャリアアップも必要です。そのための本などを並べる本棚は重要な要素です。一方、部屋は明日へのリフレッシュの空間と位置づけているケースもあるでしょう。仕事関係のものは一切ないかもしれません。しかし、その場合は心地良い空間を追い求めた結果が表現されているはずです。部屋に対するこだわりのポリシィーが見えるはずです。つまり、その人のこだわりが見えない部屋は「お金がたまらない部屋」の傾向にあると思います。
事例: 住宅の営業マンがお宅訪問時に思うこと
一般に住宅メーカーの営業マンは、住宅展示場に来場したお客さまの自宅を訪問します。もちろん敷地や現在の住まいの状況確認や測量などのためもありますが、営業マンにとってお客さまを知る情報満載なのがその暮らしぶりなのです。住まいを設計する上でその家族の暮らしぶりや価値観は重要な要素なだけでなく、一緒に住まいづくりを進めていく上で、互いに上手にキャッチボールでき、より良い住まいづくりができるかどうか、顧客の見極めの場でもあるのです。
実はこの顧客の見極めは、お客さまが展示場に来場された時からなされています。あいさつから始まって5分も話せば、その家族が上手に住まいづくりできるか、そうでないかが分かってしまいます。営業マンも満足の行く住まい提供したいので、多くの顧客をもっていれば上手に住まいづくりができる顧客の方に集中します。優秀な営業マンになればなるほど顧客を多く持っていますので、時間がかかる、うまく住まいづくりができないと見なされた顧客は、後回しにされるか、最悪見捨てられてしまう可能性もあります。
このように暮らしぶりや住まいは顧客に対する多くの情報を提供してくれるのです。上手に住まいづくりができる方は、例外なく人生設計がしっかりしています。これからどのような人生を送りたいか、住まいに求めるものは何か、的確に営業マンに伝えることができます。暮らしぶりと照らし合わせれば、より鮮明に顧客像が浮かび上がり、最適な住まいのイメージもつかみやすくなります。
周りを見わたして、買わなくても良かったと思うモノはどの位ある?
住まいや自室にあるモノを見渡してみましょう。それぞれに自分の選択が正しかったか、もう少し考えればよかったのか……それぞれ思うところがあるでしょう。何を買うのか買わないのか、いくらのモノを買うのか、いつ買うのが良いのか、いつまで使うのかなどは、ある程度生活上の計画が必要となります。必要ではなかったと思うもの、なくても何とかなったものなどの金額を概略集計してみると、それが本当は貯蓄できたはずの金額となります。かなりの金額になるのではないでしょうか。
モノの選択力があるということは、すっきり暮らせることにつながり、節約と蓄財につながっていきます。雑多なものがあふれていると言うことは計画性がなかった結果です。
部屋は住み手の表現の場
私は設計の仕事でキャリアをスタートさせましたが、上司からは「(建築の)デザインの仕事をしたければ、まずは自分の人生をデザインしろ」と言われて育ちました。当然人生設計の結果は暮らしぶりにも現れます。逆に住まいを工夫すれば、その先の人生設計にも目が向いていくように思います。デザイナーでなくても、自分の部屋は自分を総合的に表現できる場であり、表現するためにはいろいろ考えます。それが自分自身の人生設計へとつながっていくように思います。
私は2年前にリフォームをしましたが、テーマは「ぜんそくになったので、ホコリがたまらない、掃除が簡単な住まい」「高齢になっても家事が容易でいつまでも自立できる住まい」でした。以前と比べて格段に改善されていてとても満足しています。訪れた友人・知人からも「スッキリしていてうらやましい」と言われます。家で仕事をしていますので、以前と比較して家にいる時間が大幅に増えました。暮らしを楽しむ遊び心も工夫しています。勤務していた時はむしろ生活観のないニュートラルな空間としていて、その時々で季節のものを付け加えたりして変化を楽しんでいました。
私が以前勤務していた住宅メーカーの住宅展示場は2人の女性アドバイザーが交代で日々の掃除や営業マン不在の時の接客、季節の飾りつけなどを担当していました。展示場のインテリア設計は専門のデザイナーが行うのですが、ベースのインテリアは同じでも、日々管理するアドバイザーによって展示場の雰囲気ががらりと変わったものです。アドバイザーが按配できる範囲は季節の花々のあしらいやお正月やひな祭り、端午の節句など季節の行事にちなんだちょっとした飾りに限られているにもかかわらず、雰囲気が大きく変わるのは驚きでした。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
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