2月、東京都主催のイベント「ワークライフバランスフェスタ東京2016」が都内で開催された。イベント内では、「多様化する働き方 ~これからの企業成長に欠かせない"しごとスタイル"とは? ~」と題したパネルディスカッションが開催され、ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏らが登壇した。
登壇者は小室氏の他、日本レーザー代表取締役社長の近藤宣之氏、NPO法人パオッコ理事長・太田差惠子氏、住友重機械エンバイロメント代表取締役社長の真鍋教市氏、そしてコーディネーターとしてフリーアナウンサーの住吉美紀氏。二児の母で子育て中である小室氏は残業を減らして業績を上げるコンサルティングに定評があり、これまでに900社以上のコンサルティング実績を持つ。近藤氏は、2014年より厚生労働省「女性の活躍推進協議会」委員を務める。太田氏が立ち上げたパオッコは、離れて暮らす親のケアを考える会で、遠距離介護や仕事と介護の両立などをテーマに情報発信している。住友重機械エンバイロメントは、平成27年度東京ワークライフバランス認定企業(長時間労働削減取組部門)である。「育児と介護と仕事」をキーワードに、各分野の専門家が終結してのディスカッションとなった。
左から、フリーアナウンサーの住吉美紀氏、ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏、日本レーザー代表取締役社長の近藤宣之氏、NPO法人パオッコ理事長・太田差惠子氏、住友重機械エンバイロメント代表取締役社長の真鍋教市氏 |
「仕事を覚える前にワークライフバランスを考えるな」
小室氏(以下、敬称略): この2年で、企業におけるワークライフバランスの注目度が上がりました。これからは人材の奪い合い時代に突入し、人がとれる企業、とれない企業に二分化されていくと予想されます。私がコンサルティングをした企業では、労働時間を減らすと業績が上がり、女性従業員の出生数も増えた、といった企業が増えてきているのが特徴です。
近藤:最近は女性がとても元気。しかしながら日本には男性優先の風土があるので、企業風土を変えるためにも、私たちの話は社長に聞いてもらいたい。
真鍋: 弊社では、正社員の女性比率は10%程度ですが、来年度の新入社員は半分が女性となります。ですが男性中心の会社でワーカーホリックな社員も多い。現在、残業時間削減の取り組み中で、残業を減らしてできた時間をどう使うか、というところからスタートしています。
住吉: 20代におけるワークライフバランスで重要なことは何でしょうか。
近藤: 最近の若い人は、ワークライフバランスというと「ライフ50、ワーク50」という考えですがこれは間違い。私は一生を通じて、ワークライフバランスが取れていればいいと考える。若いうちはワークライフバランスを考える前に仕事を覚えるべきだ。
真鍋: 「石の上にも3年」という言葉がありますが、若い人には、「お前たちが3年我慢するんじゃない。経営者が新人に対して3年間我慢するんだ」と伝えています。仕事を覚える前にワークライフバランスなどといっていると、結局仕事も覚えられず、バランスもとれなくなっていきます。
小室: これからの時代、しっかりと学んでいかないと生き残れないのが20代。20代の将来は、世界での日本の立場も低くなり、「英語は当然。その他に何語が話せるの? 」という時代となります。ということで、この世代は「ライフ」の部分もとてもシビアになってきますね。
子育て女性社員のモチベーションは評価法で変わる
住吉: 子育て中の世代はいかがでしょうか。
制度に甘えて女性社員のモチベーションが下がるのではなく、「評価制度に問題がある」と小室氏 |
小室: 企業からは、「時短勤務などの制度を整備して充実させているが、ぶら下がり社員が増える」といった悩みが寄せられ、そんな女性にカツをいれる講習をリクエストされます。まずなぜ子育て中の女性は仕事のモチベーションが下がるのかを考えていくと、彼女たちが働く職場は、長時間労働でないと評価されないムードであることが多い。時短勤務スタッフの大半は、かつての仕事量を残業無く時短の中で完了させていることが多く、つまりは人件費自体は下がっているのです。ですが、本人の退社後にイレギュラー対応があり、周りの人がサポートをすることで本人の査定が下がり、周囲の人はサポートした分評価が上がる。仕事ではこんな不条理感があり、かといって子どもも自分の思い通りには行かない。そんな負のスパイラルの中で、仕事に期待を抱かなくなり、モチベーション低下につながります。私は期間あたり生産性ではなく、時間当たり生産性に評価を変えるようコンサル先では提言しています。女性は、きちんと評価されることでモチベーションが上がっていきます。
あとは、短時間勤務とその他の人たちとの兼ね合いも問題になりますね。しかし、長時間労働をする人も、実は様々な「ライフ」を抱えているのです。育児や介護といった特別な「ライフ」の事情をいってこない人にも有休をしっかりとらせる。長時間勤務をクライアント事情、業界慣習だからと諦めるのではなく、クライアントにも説得に行くといった社長の姿勢も大切です。社員全員の「ライフ」が充実していれば、1時間くらい早く帰る人がいてもうるさく言わなくなりますよ。
太田: 最近は出産・結婚年齢が上がり、介護と子育てが同時進行の「ダブルケア」が多くなっています。会社に内緒で介護を続けるのはほぼ不可能。介護をしているといえる職場の雰囲気づくりが大切です。企業風土を変えるのは難しいが、地域包括職員を呼んでのセミナーやグループワークなどを企業内で行うことで、社内で介護の話をしてもいいんだ、と思わせることが大事です。
小室: 親と年齢が離れている団塊ジュニア世代は、35歳でも介護が始まる年齢になってきています。突然介護が始まるとパニックになるので、事前に知識があるかどうかで大きく変わります。
近藤: 介護も育児も、さらには社員自身の病気も会社から見ると同じリスク管理。そこでわが社では、「ダブルアサインメント・マルチタスク」を経営方針としています。組織は、20%のリーダー格、60%の中間層がいて、残り20%がぶら下がり型となる。そこでぶら下がりを切ろう! としてはいけない。もし自分が病気や介護、育児が理由でリーダー格からぶら下がり層へと落ちていったとしても働き続けることができるんだ、という安心感が社員のモチベーションを上げることにつながります。
そして最後に小室さんも、「確かにマルチタスクとダブルアサインメントは大切」とコメント。「1960年代~1990年代は長時間労働で勝てる時代でした。しかし今は男女共に、短時間労働と多様性で勝負しないとビジネスで勝てないという人口構造になっています。経営者は意外と他人に説得されたがっているもなので、どんどんぶつかっていってほしい」と締めくくった。