米大統領予備選は、前半戦最大のヤマ場であるスーパーチューズデー(今年は3月1日)が終わった。共和党ではトランプ氏が、民主党ではクリントン氏が、それぞれ党指名の獲得にかなり近づいたといえそうだ。
トランプ氏の躍進をひそかに喜んでいるのは、実はクリントン氏かもしれない。Real Clear Politicsによれば、仮想大統領選挙ともいうべき世論調査で面白い結果が出ている。仮に現時点で本選挙の投票を行ったら、クリントン氏はトランプ氏に勝利する。しかし、クルーズ氏やルビオ氏が共和党の指名を獲得すれば、クリントン氏は彼らに勝てない、というものだ。ちなみにトランプ氏は、クリントン氏だけでなく、サンダース氏にも勝てない。
もちろん、選挙は水物だ。トランプ氏やクリントン氏が7月に正式に党指名を獲得すると決まったわけでない。ましてや、11月の本選挙で誰が勝利するかは全く不透明だ。ただ、今のうちからイメージトレーニングをしておくことには意味があるかもしれない。
クリントン氏が大統領になったら
クリントン氏が大統領になれば、同じ民主党のオバマ政権の政策をある程度は引き継ぐだろう。ただし、「変化」を求める有権者を意識して、自分のカラーも打ち出すはずだ。クリントン氏は、根はリベラル派との指摘もある。社会主義者を自称するサンダース氏が予想以上に健闘した影響もあって、政策運営の軸足をかなり左寄りに置く可能性もある。企業より労働者、富裕層より中間層や貧困層、グローバルより内向きを強く意識した政策だ。
もっとも、本選挙後も議会の勢力図が変わらなければ、多数派の共和党との協調なくして、政策は前に進まない。92年に誕生したビル・クリントン政権が、その2年後の中間選挙での民主党惨敗を受けて、中道寄りの政策にシフトした事例が想起される。
トランプ氏が大統領になったら
さて、トランプ氏が大統領になるとすれば、一段と不透明感が強まるように思われるが、それでも大きく2つのシナリオが考えられそうだ。
一つは、選挙キャンペーン中に口にしたことを次々に実行に移そうとするケースだ。大企業やウォール街を敵に回し、ワシントンの政治家を攻撃し、移民を排斥するような政策だ。また、中国や日本などに対して強硬な姿勢で臨むだろう。このケースでは、仮に共和党が議会を握っていても政権と議会との協調は難しいかもしれない。
もう一つは、暴言・放言の類は有権者の受けを狙って計算されたものであり、大統領就任後は現実的な政策を追求するケースだ。その場合、閣僚には優秀な実務者を配して、自身はオーガナイザーに徹するだろう。大成功した実業家として、自らのイデオロギーとは切り離して、物事を着地させることを優先する側面があるかもしれない。
後者の可能性もなくはないだろうが、少なくとも就任早々は前者の面が強く出る可能性が高そうだ。米国の、あるいは米国と関わる企業や投資家は、現時点ですでに胸騒ぎを覚えているかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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