「オーラル・フレイル(歯・口の機能の虚弱)」という言葉を聞いたことはあるだろうか。これは、「食環境の悪化が筋肉減少を招き、最終的に生活機能障害に至る」という考え方を意味する。
東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授らの研究から導かれたこの概念に、近年は日本歯科医師会も注目している。そして、この考えは高齢者だけではなく、20代や30代といった若年層にも該当するのだ。
本稿では、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師の解説をもとに、オーラル・フレイルの進行具合や招きやすいライフスタイルなどを紹介する。
寝たきりにつながるオーラル・フレイル
実はオーラル・フレイル自体は、何か特定の症状が出るわけではない。だが、咀嚼(そしゃく)機能の低下は「サルコペニア(運動・身体機能に障害が生じたり、転倒・骨折の危険性が増大したりする状態)」や「ロコモティブシンドローム(運動器の障害により、要介護になるリスクの高い状態)」の前兆と考えられている。すなわち、オーラル・フレイルは「寝たきり」につながるのだ。
オーラル・フレイルは大きく分けて、「(1)歯の喪失」⇒「(2)滑舌の低下・食べこぼしやむせの発生」⇒「(3)咀嚼する力の低下・食事量の低下」⇒「(4)飲み込み障害発生」という段階を経て進んでいく。(3)の段階で筋力低下に、(4)の段階で介護状態につながる可能性がある。
「咀嚼や嚥下(えんげ: 物を飲み込むこと)が困難になると、まず食欲が落ちます。食事も炭水化物や糖分の多い軟食になり、筋肉を作るたんぱく質が不足するため、体力や筋力が減退して体の病気に対する抵抗性も減少します。そうなると活動性が一気に無くなり、日常の運動機能が減退します」と、今村医師は口腔(こうくう)周りの機能低下が招く「負のスパイラル」を解説する。