モデル・押切もえ(36)が小説家デビューしてから約2年半。その進化の過程を知ることができる小説『永遠とは違う一日』(新潮社)が2月26日に発売された。文芸誌『小説新潮』で1年にわたって連載された6本の短編小説がまとめられたもので、モデルに振り回されるマネージャー、アイドル失格の高校生、スランプの続く画家といったさまざまな境遇の女性たちにスポットを当て、希望と挫折、葛藤を映しながら、ささやかな奇跡を描いている。
構想期間も含め約3年の月日を費やしたデビュー作『浅き夢見し』がヒットしたことにより、"押切もえ"という存在に再び注目が集まった。読者モデルをきっかけに芸能界の荒波に飛び込み、引退危機を乗り越えながら積み上げた約15年のキャリア。たどりついた現在地で、モデルはもちろんのこと、作家、画家、プロデューサーといった多方面で"才能"を開花させている。果たして、押切にとっての"才能"とは? 約2年半ぶりのインタビューとなったこの日、押切はお辞儀をしながら笑顔で出迎えてくれた。
――お久しぶりです。
たしか小学館さんで取材してくださった時、以来ですね?
――そうです!
本当にあっという間ですね。
――早速お話をうかがいたいのですが、前作『浅き夢見し』(小学館)は25歳の売れないモデル・村田瞳が主人公でしたが、今回は共通の世界観の中でさまざまな職業、世代の女性を主人公とした物語でした。このような群像劇は、連載をはじめる当初から考えていたことだったのでしょうか。
細かくは決めていませんでしたが、短編を書いていく中でそれぞれの人物のつながりや設定はある程度考えていました。6話「失格した天使と神様のノート」では、アイドルで売れることを目指していた葉月という女の子があるきっかけで助産師を目指していくのですが、この話を書くために事前に助産院への取材もしました。
――押切さん自らアポを取ったんですか?
そうですそうです! ネットで調べて、自分で電話しました。最近は助産院でもお産をやっているところが少なっているので心配でしたが、「メールで文章をください」と言われたので、まずは「初めまして押切もえです。モデルをやっております」とあいさつ(笑)。こちらの意向を汲み取ってくださって、協力していただきました。においや人の表情、雰囲気、声のトーン。そういうものは自分で実際に感じないと書くことができないので、貴重な経験でした。
――助産師に興味を持ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
連載の最終話だったので、自分とは違う職業、未経験のことを書きたいと考えていました。お産も経験したことがないので「書けるのかな」という不安はありましたが、私の周りでは高齢出産や不妊で悩んでいる友人もいるので、多くの女性が考えている「出産」にあえて触れることにしました。
――きっと多くのアイドル、芸能人の方々も葉月のように「第2の人生」を選択しているんでしょうね。
読んでいただいた方から、そのことはよく言われます。書評を書いてくださった記者さんが、「消費する側とされる側の視点」が描かれていたことを評価してくださったのですが、あまり意識したことではなかったので、自分が漠然と抱えていた不安が無意識にこぼれ出てしまったんだと思います(笑)。
――モデルとして15年も活躍されていると、きっといろいろな出来事や感情の浮き沈みがありますよね。
そうなんです。何もせずモデルだけでやっていく自信は、今でもありません。だからこそ1つ1つのお仕事が大事になってくる。この業界の方々はずっと1本道なわけではなくて、ご家庭に入られる方もいれば、起業される方もいます。そういう先輩方の姿で学ばせてもらっていますし、自分もいろいろな経験をしながら何かで社会に貢献していければなと思います。
――モデルでデビューされてから、今では作家、画家、プロデューサーなど多方面で活躍されています。仕事に対する考え方は以前と変わりましたか。
"素"になれる瞬間が増えたと思います。モデルはきれいな服を着て、メイクをしていただいて、自分を大きく見せたり、かっこよく見せることが評価につながるお仕事。そこを突き詰めていくことで、周囲との目線が合わなくなったり、昔から応援してくれていた方々が離れていくことを感じたりもしました。そういう意味では文章の中で自分を出すことは意味がありますし、キラキラした場所とは違う裏方として求められると、「自分も素でいいんだな」と思えるようになりました。
――その話にも繋がるのですが、本の中でとても感動したセリフがありました。
えっ! どこですか!?