「女性が夜ひとりで歩ける日本の環境に感激」 - 日本在住メキシコ人の働き方

日本からフライトで13時間のメキシコ。真っ青な海が目の前に広がるリゾート地、カンクンがジェシカさんの故郷です。日本に憧れ、18歳で語学留学。スペイン料理店のシェフを経て、1年前に念願のメキシコ料理店を自由が丘でスタートさせました。現在は、朝10時から夜中まで毎日フル活動というジェシカさん。その原動力になっているメキシコ人としての熱い思いを聞きました。

■これまでのキャリアの経緯を教えてください。

自由が丘にあるメキシコ料理店「ケ・リコ」のオーナー(経営者)です。お店が開店して2年半、前オーナーとの共同経営から、自分が経営者になって1年になります。その前は都内のスペイン料理店で18年間シェフを務めました。

さかのぼること28年前。まだ若かりし頃、18歳で初めて日本に来ました。私の故郷であるメキシコのカンコンは日本人観光客の多い町。彼らと接するうちに日本に興味を持ったんです。日本語の勉強のために、御茶ノ水のソフィア(上智)大学に留学。3カ月という短期のコースでしたが、その間に日本人の恋人ができ、そこから私の人生は日本と深く関わることになりました。

色々あってメキシコに戻った時代もあります。そのころは、観光ガイドとして、日本とメキシコを行ったり来たり。でもいつしか、また日本に住みたいと思うようになりました。うまく言えないのですが、日本にいると、私の感情が豊かになるんです。おいしい! とか、可愛い! とか、そういう気持ちがメキシコにいるときよりも強く湧いてくる。日本という土地が合っているように思います。

それから、都内のスペイン料理店のシェフとして働くことになりました。私の母はスペイン人で、スペイン料理は子供のころから大好き。もともと料理には興味があり、料理学校に通った経験もあったので、この世界に道に進むのは自然な流れでした。ちなみに、この店のオーナーが今の旦那様。彼は日本人ですが、9年間スペインで暮らしたことがあり、本当に驚くほどおいしいスペイン料理を作ることができます。彼と知り合えたことで、料理の道に進むことができ、とても感謝しています。

■現在のお給料について教えてください。

お店を経営するのは大変ですが、好きな料理に携わることができ、すべて自分の意思で決めることのできる今の状況に不満は一切ありません。

■日本とメキシコの労働環境での違いは?

日本は仕事を見つけやすい国ですね。私の故郷は、仕事をしたくても仕事が無いという状況でした。日本は女性でもちゃんと働けますし、働く女性に対しての周りの理解もあります。それに、残業して女性が夜遅くひとりで帰っても平気というのも素晴らしい。メキシコは、日が暮れたら女性のひとり歩きは厳禁。男性でも歩きたがらない国です。

日本人は働き過ぎる? そうですね～。日本に住んで長いので、残業はまったく苦になりませんが、たしかに、メキシコ人でこんなに遅くまで働く人はいないかも。ラテン系の民族なので、働くよりも遊びが大事。仕事中でも好きな音楽を聞いて、いつの間にか仕事を忘れていたり(笑)。そういうメキシコ人と一緒に日本で働くのは、ちょっとストレスに感じることもあります。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

お店の常連さんと色んな話ができること。それも、年配の男性から若い女性、家族連れ、メキシコ語を習っている日本人など、色んなお客様が来てくれるのがうれしいです。夏は店の外にテーブルを置いて、ワンちゃんと一緒に食事を楽しめるよう工夫しています。多くの方に私の故郷の味を食べてもらえるのがうれしいです。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

26歳と10歳の息子がいますが、毎日が忙しくて、子どもと一緒にいる時間があまりとれないのが寂しいです。とくに下の子はまだ小さいので、もっと一緒にいてあげたい。「今はママの頑張りどきだから、ちょっと我慢してね」といつも話しています。

■日本についてのイメージを教えてください

女性がひとりでも夜に外を歩ける安全な国。外国人、女性への偏見のない国。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは?

今は朝から晩までお店のことで頭がいっぱいで、ニュースを見る時間がありません。ごめんなさい。

■あなたの「マストビジネスアイテム」を教えてください

尊敬するメキシコ人シェフが書いたレシピ本「los mejores platillos mexicanos」とiPadです。この本は、メキシコの家庭で実際に作られているオリジナルのレシピが掲載されていて、私のバイブルです。iPadは、思いついたときに私のオリジナルレシピをメモするために必須。

■休日の過ごし方を教えてください。

今は休みを取ることできませんが、そのかわりに、この店を自分の家だと思って、リラックスできる時間をとるようにしています。たとえば、お客様と話して笑ったり、一緒に踊ったり。お客様に楽しんでもらいながら、私もストレス解消しています。

■将来の仕事や生活の展望は?

メキシコで大変ポピュラーなタコス専門店「タコス・タケリカ」をやりたいです。「タコス・タケリカ」は、和食でいえば、焼き鳥店のような存在。どこの町にもあり、誰でも気軽に立ち寄れる店です。店頭に様々なタコスの具を並べて、お客様が好きな具を選び、それぞれのタコスを楽しむことができます。

将来は、メキシコ料理といえば"ジェシカ"といわれる存在になりたい。レシピ本を出版したり、ジェシカブランドの商品も販売したいです。やりたいことはたくさんあります。階段を一歩ずつ上っていくイメージで、確実にステップアップできたらいいですね。