朝日新聞社は2月20日、「『女性にやさしい』その先へ! 」と題したフォーラムを開催。資生堂の魚谷雅彦社長が、短時間勤務制度を利用している子育て中の社員にも、遅番や土日勤務などに取り組んでもらう制度改革、いわゆる「資生堂ショック」について語った。
職場の不公平感とキャリアを積めない不安
フォーラムでははじめに、魚谷社長が働き方の制度改革を行った真意について語った。その中でまず強調したのは、「資生堂ショック」が女性活躍を先進的に進めてきたからこそ必要な改革だったということだ。
同社が仕事と家庭の両立支援を導入したのは1990年代。育休制度に加え、「カンガルーム」と呼ばれる企業内保育所を完備し、子育て中の女性が働きやすい環境を整えてきた。短時間勤務制度を利用している美容部員が育児に専念できるよう、店頭活動の手伝いをする「カンガルースタッフ」を配置しているのも、同社の特徴的な取り組みといえる。
しかしこれらの制度の導入により、職場環境に支障が出てきた。「先輩社員がいる中で、育児中の社員が先に退社するのは勇気がいること。制度的には認められているが、社員間でも人間の気持ちとして不公平感が生まれてしまった」と魚谷社長。また、客と接する時間が減っていくことで、自身のキャリアに不安を覚える子育て社員も増えていったという。
ノルマのために無理強いしたわけではない
このような課題に直面し取り組むことになったのが、短時間勤務制度を利用している子育て中の社員にも、遅番や土日勤務に入ってもらうという対策だった。魚谷社長は、「家族からどの程度サポートが得られるかなど、社員1人1人が上司と面接をして丁寧に仕組みを作り上げていったもので、決してノルマのために無理強いしたわけではない」と主張。現場の社員の中からも、今回の制度改革によって「自分の仕事の責任が果たせると思い、気持ちがすっきりした」との声が寄せられているという。「今までの取り組みの中でうまくいったこともあるが、一方で課題も出てくる。ここでひるんではいけない。もう一歩前に進む道として改革を選んだ」とのことだ。
女性管理職を増やしていく
さて、今回の働き方改革を経て、資生堂の女性活躍推進はどのような方向に向かっていくのだろうか。魚谷社長が強調したのは、社内のダイバーシティを進めるということ、そして"女性管理職を増やす"ということだ。
「女性の管理職を増やすために数値目標を立てるということを、影響力のある立場にいるわれわれが、勇気を持って取り組まないと物事は変わっていかない」と主張。「単に女性に責任ある仕事をしてくださいというだけではなく、将来的にポテンシャルがある人にどのようなキャリアパスをたどってもらうか、キャリア設計や育成をしていく」と話した。さらにダイバーシティの感覚に優れた外国人の採用や、在宅勤務など多様な働き方の積極的導入、それに前の終業から次の始業までの間に一定の休息を取らせる「勤務間インターバル制度」の整備なども進めていきたいとした。
一部では女性活躍の後退とも指摘された「資生堂ショック」。今回の制度改革を、社会全体としてどう捉えるべきなのか。「『育休世代』のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? 」の著者である、ジャーナリストの中野円佳さんらが、魚谷社長講演後のフォーラムで語った内容は、後編でお伝えする。