米国の景気に対する懸念が強まっている。中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が、追加利上げができるどころか、利下げ、それもマイナス金利導入に追い込まれるのではないかとの見方まで浮上している。

果たして、米国はリセッション(景気後退)に向かっているのだろうか。今回の景気拡大期はリーマン・ショック後の2009年6月に始まったので、今年2月で80カ月目を迎えることになる。第二次大戦後の拡大期間の平均は58カ月だ。その意味では拡大期がそろそろ終焉を迎えるとの見方もおかしくはない。ただ、近年では拡大期間が120カ月(1991年3月~)も続くこともあったから、景気が単に「老衰」で寿命を迎えるというわけではなさそうだ。

製造業の低迷が鮮明

足元では製造業の低迷が鮮明だ。製造業の景況感を示すISM指数は今年1月まで4カ月連続で50を割り込み、製造活動の縮小を示唆している。前回ISM指数が4カ月以上50割れとなったのは、2008年8月からの12カ月間で、当時はリセッションのただ中だった。

ただし、発表元のISM(供給管理協会)によれば、同指数が43.2を超えていれば、通常は景気拡大を示唆し、また今年1月の水準(48.2)は年率1.6%の経済成長と概ね合致するという。一方、主にサービス業の景況感を示すISM非製造業指数は今年1月に53.5と、やや低下してきたものの、2010年2月以降50超えが続いている。やはりISMによれば、非製造業指数の今年1月の水準(53.5)は年率1.8%の経済成長と合致するという。

経済のサービス化によって、経済全体における製造業のシェアはすう勢的に低下してきた。今年1月時点で、雇用全体に占める製造業の比率はわずか8.6%に過ぎない。これは政府部門の比率(15.4%)さえも大きく下回っている。50年前、製造業の比率は約30%だった。2015年に生まれた雇用はネット(純増分)で265万人だった。前年(312万人)には届かなかったものの、それを除けば16年ぶりの多さだった。このうち、製造業の純増分はわずか2%足らずだった。

もっとも、雇用はせいぜい景気の一致指標であり、今後、雇用の増加ペースが急速に鈍化するならば、リセッションが現実味を帯びる可能性も否定はできない。製造業の拡大なくして、換言すればサービス業の拡大だけで、今後も経済成長を続けていけるのか、米国は大きな実験の最中だともいえそうだ。

ところで、リセッションという点では、直近の昨年10-12月期を含めて過去8四半期中の4四半期でマイナス成長となり、また2015年の消費支出が2年連続マイナスとなった日本経済の方がもっと心配かもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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