――いわゆる「CGっぽさ」の正体はよくわかりました。しかし『ブブキ・ブランキ』からはCGっぽさをそれほど感じません。その理由は?

松浦:一つにはお客さんが育ったということがあります。我々が本格的にTVシリーズを始めたのは2011年で、その頃はまだ「違和感がある」と言われていました。それでも続けているうちに、お客さんが慣れてくれたのでしょう。

余談ですが、僕はアニメをぜんぜん見ていなかった人間で、東京にきて最初に入った会社でアニメが原作のゲームを作ることになってから勉強しました。最初はどのアニメのキャラクターもぜんぶ同じに見えましたが、だんだんわかるようになってきました。「慣れ」の問題は大きいんですよ。

――それはありそうですね。しかし、『ブブキ・ブランキ』は「慣れ」でカバーしている範囲を超えて、明らかにこれまでのセルルックアニメよりもセル画に近い印象を受けるのですが。

主人公・一希東の2D設定画(左)と3D設定画(右)

松浦:それはふたつ目の理由で、モデリングの動かし方に個性が出せるようになったからです。セルアニメだと原画担当が違うとタッチも微妙に変わったりしますよね。CGだとそういう個性を出すのが難しかったのですが、最近はできるようになってきたのです。

――CGで個性を出すというと?

松浦:3DCGを使ったアニメにはよくやりがちな落とし穴があります。それは、一つのモデルをすべてのカットで使おうとすることです。

モデラーが作ったモデルなんだから、これが正解だ。動きをつけるアニメーターは、一切形を変えてはいけない――そういうポリシーを持っているスタジオも多いのですが、僕らは違います。カット単位でモデルをデフォルメするし、どんどん変形させていきます。

形は「正しい」はずなのになぜかキャラがかわいくない時には、アニメーター自身がモデルを直します。そのシーンでどうすれば良くなるのかは、アニメーターの方がモデラーよりもわかっているはずだからです。これをやらないと、形は正しいんだけど、いかにもCGという感じになってしまいます。自分がかわいいと思う表情や動きをアニメーター自身が作ることで、そこにセル画の原画担当のような個性が生まれるのです。

サンジゲン・松浦裕暁代表

――なるほど。しかしセル画らしくするだけなら、CGを使わずにこれまで通り2Dの作画をすればいいだけですよね。あえてCGを使ってセルルックにしているということは、CGだからこその良さがそこにあるからでしょうか。

松浦:もちろんです。先ほどとは逆に、形が変わらないことがCGの武器になります。

たとえば手描きの作画だと避ける方法の一つにスローモーションがあります。なぜ避けるかというと、1枚1枚手描きすると、どうしてもズレが目立ってしまって動きがビヨンビヨンしてしまうんですね。これは手描きである以上、仕方ないことなんです。しかし、CGなら簡単です。僕らは『009 RE:CYBORG』の加速装置でこの演出を使いました。

それから『新劇場版 頭文字D』では、漫画の演出を再現するために大量の細かい縦線を加えて動かし続けました。これも手描きでは難しく、CGで計算してやっています。漫画家さんには独自のタッチがあって、それをアニメで再現するためにはCGが不可欠なことがあるのです。

――たしかに、今までだと「漫画のあの効果をアニメ向けにどう演出するんだろう」と考えていたと思います。つまり漫画そのままの演出は無理だから、アニメ向けに「変換」しないといけなかったわけですよね。

松浦:ええ。だから演出さんは喜んでいますね。今まで手描きアニメではできなかった演出をあきらめなくていいわけですから。不可能ではないけど大変だった演出も、CGのおかげでグッと手間を減らすことができるようになりました。

たとえばCGならではの演出の一つにカメラワークがあります。CGなら簡単に回りこむカメラワークが使えるんですね。これは作画でも不可能ではありませんが、ものすごい手間がかかります。手描きだと僕たちにはできない演出です。でもCGならできるのです。

『ブブキ・ブランキ』場面カット

後編では、松浦代表から見た日本のアニメ業界の現状、そして「これから」について語られる。乞うご期待。

ブブキ・ブランキ

意思を持つ武器「ブブキ」と心を通わせる少年少女が、それぞれの願いを叶えるため、悪逆で老練な大人たちに立ち向かう、異能力戦隊バトルロマン。 2016年1月9日より毎週土曜日夜10:00からTOKYO MX / AT-Xほかにて放送中。

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