訪日外国人客の増加でホテル業界は活況だ。業界にとっては喜ばしいニュースであるが、"選ばれるホテル"となるために、斬新なコンセプトを打ち出すホテルも誕生している。筆者がホテル評論家として、2014年終わり辺りから「コンセプトホテル」という呼称で指摘してきたかような動向が、このところ顕著に見られるようになってきた。そのような中でも、2月5日にオープンした「SHIBUYA HOTEL EN」は印象的だ。

「SHIBUYA HOTEL EN」には漫画も待ち構えている

漫画に赤富士に能までも

渋谷駅から徒歩7分のところにある「SHIBUYA HOTEL EN」は、1階のエントランス&レストランを除く客室8フロア構成で、各階で異なる「和」を演出している。2階から「漫画(MANGA)」、3階は「手ぬぐい(TENUGUI)」、4階は「あじき路地(Ajiki-roji)」、5階は「北斎 赤富士(Hokusai Red-Fuji)」、6階は「能舞台(Noh stage)」、7階は「千本鳥居(Senbon Torii)」、8階は「森羅万象(Universe)」、そして9階は「和(Wa)」である。

JR渋谷駅(ハチ公口)より徒歩7分、道玄坂下交差点からなら徒歩5分だ

中でも衝撃なのは、2階の漫画(MANGA)。フロアの壁全体を使って、渋谷スクランブル交差点からホテルまでの道案内をしている。現在では「MANGA」という言葉がそのまま世界で親しまれているとは言え、ホテルのデザインにも採用されるとは驚きである。

枠にとらわれないデザインが大胆

また5階には、日本の庶民文化を語り継ぐ浮世絵の代表作・葛飾北斎「富獄三十六景」が登場。エレベーターを降りた正面には、赤富士で知られる名作「凱風快晴」が。北斎の世界に迷い込んだような錯覚に陥る。

5階「北斎 赤富士(Hokusai Red-Fuji)」にはあの赤富士が

その他、能舞台(Noh stage)や千本鳥居(Senbon Torii)、その名も和(Wa)など"和にいきづく静"とも言えるオーラが館内を覆う。コンセプトの打ち出しが、時としてエンターテインメントを想起させるケースはある。しかし、驚きやワクワク感の中にあって、あえて"静"に重きを置くのは、ホテルという"装置"ならではの試みだろう。

6階「能舞台(Noh stage)」にはあの面が、9階「和(Wa)」には輝く空間が

最高峰「グランスイート」を全室採用

"装置"というのも、客室へ入るとホテルとしての機能が一級であることを再確認できるからだ。ホテルは旅人を癒やし元気を与える場所、という基本が貫かれている。

温もりを感じる客室は癒やし空間に

快適なベッドで完結するホテルステイではあるが、木や石など素材の質感を生かした空間づくりは、デザイン性高きアクセントを与える。肝心のベッドは、英国スランバーランドの最高峰「グランスイート」を全室採用しているというから、ホテルの基本である「快適な睡眠」は折り紙付き。

浴室もスタイリッシュ。部屋によってはミストサウナが付いている浴室もある

ホテルには様々な要素がある。ハード・ソフト・ヒューマンという基本はもちろん、ステイや公共性という役割も重要だ。その中で、新たなホテル文化の発信を試みようとする「SHIBUYA HOTEL EN」の取り組みに、ホテル評論家としても強い関心を抱かずにはいられない。

※記事中の情報は2016年2月取材時のもの

筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)

ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。

「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」