1月29日、日銀がマイナス金利を導入した。金融市場では、いったん株高、円安に振れたものの、その後は株安と円高が進行した。一方で、10年物国債利回りが一時マイナスになるなど、市場金利は大きく低下している。

黒田総裁はマイナス金利導入後の会見で、その狙いについて、市場金利に「より強い下押し圧力を加えていく」と説明した。その意味では、所期の狙い通りなのかもしれない。ただ、どこまで日銀要因かはわからないが、大幅な株安や円高は想定外だったのではないか。

世界的にも金融市場は混乱

さて、世界的にも金融市場は混乱の度合いを増しており、今度は米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)がマイナス金利を導入するのではないかとの見方が浮上してきた。FRBは昨年12月に9年半ぶりの利上げに踏み切ったばかりだが、早くも方向転換というわけだ。

ただ、現時点でFRBがマイナス金利を導入する可能性が高いと考えるのは、さすがに時期尚早だろう。

2月10日の議会証言で、FRBのイエレン議長は、「株価の下落、ジャンク債の利回り上昇、ドル高などの金融条件は、従来に比べて経済成長をサポートしにくくなっている。そうした状況が続くなら、経済見通しを悪化させるだろう」と語った。以前より一段と慎重な姿勢になったものの、利上げという方向にブレはなかった。

イエレン議長はゼロ金利への回帰やQE(量的緩和)の再開、ましてや米国発のマイナス金利導入を示唆したわけではない。議長は、下院議員からの質問に答えて、導入は不可能ではないと語ったが、これはあくまでも技術論だった。

米国でも日本と同じことが起きる懸念

米国でも日本と同じことが起きるとの懸念は、実は今回が初めてではない。日本は1990年代末ごろから、消費者物価が前年比でマイナスになるという意味でのデフレに突入した。そして、米国でも2000年代初頭のIT株バブル崩壊によって、2002年ごろからデフレが懸念されるようになった。

2002年11月には、FRBのバーナンキ理事(後の議長)が、「デフレ:『それ』が米国で起こらないようにするために」と題する講演を行った。その中で、デフレ対策として、ゼロ金利、時間軸効果(ゼロ金利を一定期間続けると約束することで中短期の市場金利を押し下げること)、国債購入(量的緩和)などの、いわゆる非伝統的手段が列挙された。

IT株バブル崩壊直後からアグレッシブな利下げを続けたFRBは、2003年6月には政策金利を当時として異例の1%まで引き下げた。ただ、それが最後だった。米経済は非伝統的手段を必要とせずにデフレを回避することができた。あくまでも結果論だが、当時のFRBの「行き過ぎた」金融緩和は、その後の住宅バブルを生み、2008年リーマン・ショックの素地を作ることになった。

一方で、リーマン・ショックを契機に米FRBがゼロ金利や量的緩和を採用して、結果的に日銀の後を追ったという事例も存在する。日銀の黒田総裁は直前までマイナス金利導入を強く否定していた。FRBが突如利下げし、さらにはマイナス金利を発表しても不思議ではないとの見方もできよう。いずれにせよ、金融市場の動揺が長引く可能性もあるなかで、今後の展開には大いに注目だろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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