政府がこのほど発表した2016年度予算案で、「沖縄子どもの貧困緊急対策事業」として10億円が計上された。背景には、沖縄県の子どもを取り巻く環境が全国でも極めて深刻な状況であるにも関わらず、行政の支援が行き届いていない現状があるという。事業内容と背景事情について県の担当者に聞いた。
子どもの居場所をつくり支援につなげる
同事業は、(1)子どもの貧困対策支援員の配置、(2)子どもの居場所の運営支援を柱としており、3カ年のモデル事業として実施することを想定している。
「貧困対策支援員」は、支援を必要とする子どもたちの現状を把握し、それを提供できる地域の施設やNPOなどに結びつけるコーディネーター的な役割を果たす。市町村が地域の実情に応じて中学校区に1人などの基準で人材を配置。人材確保のため、県が研修を実施するなどして後押しする。
また「子どもの居場所運営支援」では、食事の提供や生活指導、学習支援、キャリア形成などを行いながら子どもの居場所づくりを行う取り組みを支援する。運営母体はNPOや児童館、公民館、子ども食堂などを幅広く想定。支援により活動の回数や幅が広がったり、放課後から深夜まで開所したりすることが可能となる見込み。学童保育の費用が払えない貧困家庭の子どもたちの居場所が確保できると期待されている。
深夜まで1人で過ごす子が街を徘徊
緊急対策が必要とされた背景には、まず沖縄県の貧困率の高さがある。県や内閣府の資料によると、貧困世帯の割合を示す貧困率は29.3%(2007年)で全国平均の約2.0倍。統計的に子どもの貧困率が高くなる母子世帯の出現率も2.72%(2010年)で全国平均の約1.9倍といずれも全国ワースト1位になっている。
給食の1食のみで過ごす子がいるなど、親の世代の貧困は子どもの生活に直接的に影響する。さらに、学習支援などさまざまな支援を活用できないまま育った子どもが、貧困を引き継いでしまうのではないかと懸念されているのだ。また同県では、放課後から親が帰宅するまでの間の子どもの居場所がないことで街を出歩いて登校に支障が生じたり、非行に至ったりするなど問題を抱える子どもが多くいるという課題も抱えている。
県がひとり親世帯に行った実態調査(2008年)によれば、「母子・父子世帯の就労している親の帰宅時間」について、4.7%が「21時~23時」と回答。「23~24時」は1.4%、「24時以降」は7.1%となっていて、「不規則」と答えた人も11.1%いた。加えて、沖縄タイムスの調査(2010年)では「夜、子どもだけで過ごしている子がいる」と答えた教員の割合が過半数を占めることもわかっている。因果関係ははっきりしないものの、県によれば深夜まで1人で過ごす子どもが街を出歩いていると推測できるという。
このように子どもの貧困対策が急務となっている沖縄県。今回の緊急対策事業が子どもを救う手だてとなるのか。県は「各市町村が活用しやすい事業設計をしたい」として、4月からの開始に向けた対応を急いでいる。
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