社員食堂の健康的なメニューが評判となり、健康機器メーカーのタニタが東京に「丸の内タニタ食堂」をオープンしたのは2012年のこと。食堂事業の好調を受けて、47都道府県に1店舗ずつの出店を目指す同社が、店舗では取り込みきれない潜在顧客の開拓に向けて新たに始めるのが宅配食サービスだ。本業に比べれば事業規模は「取るに足りない」(タニタの谷田千里社長)という同社の「食」ビジネスだが、宅配が軌道に乗れば、「食」が新たなビジネスの柱に育つ可能性もある。
宅配食サービスでタニタが狙うのは、タニタ食堂で取りこぼしている潜在的な顧客の開拓。ターゲットは食事の用意に手が回らない忙しい家庭というよりも、「タニタの社食を食べてみたい!」という明確なニーズを持つ人々だ。健康的な食事の代名詞になりつつあるタニタのブランド力は、ほかの宅配食業者と一線を画す同社の強みとなる。タニタは「ほっともっと」のプレナスと組んで、2015年4月から持ち帰り弁当事業に取り組んでいるが、同事業が好評なことも宅配食への参入を決めた理由の1つだという。タニタは食堂と宅配食を「食」ビジネスの二本柱として進めていく。
タニタは給食事業者のレパストと組んで、2016年2月1日に宅配食サービス「からだ倶楽部」を始めた。タニタ監修弁当の製造・配送をレパストが実施し、タニタはメニュー監修料を受け取る仕組みだ。まずは首都圏で事業を展開するが、タニタはサービスエリアの拡大にも意欲をみせており、他地域でもレパストと組む可能性がある。
レパストは独自の宅配食サービス「ストーク」を30年以上運営しており、タニタの弁当を届ける際には既存の配送網を活用する。レパストによると、日替わりで弁当を製造したり、作った弁当をその日のうちに届けたりするノウハウを持っているのが同社の強み。タニタが宅配食サービスのエリアを拡大する場合は、進出先でこれらのノウハウを持つ企業を見つけるよりも、レパストと一緒に進出したほうが話が早く進みそうだ。
からだ倶楽部は配達日の夕食と翌朝食の計2食が1セット。月曜日から金曜日までの1週間分(計5セット)を販売単位として2016年2月1日からサービスが始まったユーザーに届けるほか、4月からは1カ月分の注文も受け付ける方針だ。レパスト代表取締役社長の西剛平氏によると、販売数としては初年度10万セットというのが「目標というより現実的な数字」だという。1週間分(10食)の価格は送料込みで1万1,000円。1食あたり600円程度の「ワタミの宅食」や「ウェルネスダイニング」などに比べれば割高な印象だが、強気の価格設定はタニタブランドに対する自信の表れともとれる。
一般家庭向けで始まるタニタの宅配食サービスだが、企業向けの大口受注は視野に入っているのだろうか。谷田社長に聞いてみると、「企業向けは(質問を受けるまで)考えていなかったが、そういう領域があるのであれば検討してみたい」とのことだった。もともとは社食から始まったタニタの「食」ビジネスであれば、昼食のみの宅配サービスをメニューに加え、企業向け需要を開拓する選択肢もあるかもしれない。
タニタは宅配食サービスの本格化と食堂の全国展開を進め、2018年度には「食」ビジネスで年間100万食、売上高5億円の事業規模を目指す。「食」で売上高5億円を達成しても、同社全体の売上高に占める割合は「1割もいかない」(谷田社長)程度の規模だが、宅配食が軌道に乗り、サービスエリアが広がれば、同社全体の業績に与えるインパクトも確実に高まっていくだろう。