イノベーター部門競技

本部門競技には9チームが出場した。「次世代のイノベーター育成を目指す部門。自由に製品・サービスを企画し会場で発表。"企画し産み出すエンジニア"に挑戦します」と謳った本年は内容、実演ともに、昨年より圧倒的に充実しており、全チームともすばらしい実演を披露した。例えば、授業の充実を支援/スマートデバイスの電池切れ対策/未来の工場で役立つロボット、といった明瞭なテーマ設定と、ビジネス性への言及、そして実演内容が揃っていたため、観客も大いに楽しんでいたようだ。一方でこれまでにないものを伝える難しさや、実演の壁に苦しんでいたチームもあり教育効果の高い競技であったと思う。競技優勝は、空中をサルのように飛び移る、未来の工場で役立つロボットを実演した揃いの作業服を着た技術者集団、東海地区の「FUJIWING(富士機械製造)」であった。

FUJIWAINGのパフォーマンスの様子 (提供:ETロボコン実行委員会)

審査

ETロボコンの有名な特徴は、実競技だけでなく、設計や企画などの「紙モノ」も審査対象になるところだ。デベロッパー部門では走行競技と設計モデル審査の総合で、イノベーター部門では会場発表審査と企画内容審査の合計で競うことになる。

ここで本年度の設計モデル審査の結果について少し触れておこう。

DPクラスの設計モデル審査では「ソフトウェアの内容をモデルで正しく分かり易く提示できていること」を主に評価する。本年度のCS大会参加チームは、審査のここまでは達成して欲しい、という基準をすべてクリアしていた事を記しておきたい。今年DPクラスに出場したチームは、来年ぜひDAクラスに出場し、新たな課題すなわち、動的な変化への対応が求められる設計技術や高度な制御技術に挑んでもらいたいと思う

一方、DAクラスの設計モデル審査では、「高性能を実現する制御技術とそれをソフトウェアとして実現するための設計技術」および「課題実現のための効果的な制御技術および設計技術」を主に評価する。しかし、本年のCS大会モデルは、残念ながら全体的に低調であったと言わざるをえない。機能についてのモデリングはできているのだが、要素技術、構造、振る舞いについてのモデリングがすべて揃っているチームが見当たらなかったためである。

また、性能モデルに関しても「制御について"触れている"が具体性にかけている」(本部性能審査団)傾向が強かった。このような総合的な理由から、本年は本クラスのベストモデルに与えられる「ベスト・オブ・アドバンストクラス」は空位とされ、部分的に優れたアプローチが認められた5チーム「Champagne Fight(リコーITソリューションズ ES事業部 札幌事業所)」、「追跡戦隊レッド(日立産業制御ソリューションズ)」、「ヒカリバクシンオー(富士ゼロックス)」、「HELIOS(アドヴィックス)」、「NiASET(長崎総合科学大学)」に技能賞が与えられた。

Champagne Fightのモデル

追跡戦隊レッドのモデル

ヒカリバクシンオーのモデル

HELIOSのモデル

NiASETのモデル

イノベーター部門では、企画書を通じて「製品企画の良さとそれを実現するための技術」の審査が行われる。企画書の書き方に規定はないが、内容やその実現方法をうまく記述しないとならない。例年、参加者はその記述に腐心してきたようだが、本年はすべてのチームが、例えば、「授業の充実を支援」、「スマートデバイスの電池切れ対策」、「未来の工場で役立つロボット」などといった明瞭なテーマを軸に企画書を作成してきたのは特筆すべき事だと感じる。また、多くのチームが、その企画のビジネス性へ言及していたことも、本年の大きな特徴であった。

一方、課題としては、せっかく設定したテーマに比べ説得力が弱い、すなわち、テーマに関してパフォーマンス内容が妥当でないと感じられるものも少なくなかったことが挙げられよう。どのチームも、すべての観客も当日に実演する重要性や、これまでにないものを伝える難しさを体感したことと思う。

G-iceのパフォーマンスの様子 (提供:ETロボコン実行委員会)

ほぼ組Tのパフォーマンスの様子 (提供:ETロボコン実行委員会)

その他、Toppers賞は「ごばりき15'(日立オートモティブシステムズ 佐和事業所)」、IPA賞は「ガラナエクスプレス」、情報処理学会若手奨励賞は「NiASET」にそれぞれ授与された。

本年の詳細な競技結果、受賞一覧は以下のリンク先を参照されたい