ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム
CRS-2に選ばれた補給船型のドリーム・チェイサーは、正式には「ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム」と呼ばれている。機体は小型のスペース・シャトルのようなドリーム・チェイサーの本体と、その後部に装着される、補給物資を載せるカーゴ・モジュールから構成されている。
カーゴ・モジュールには1気圧で満たされた与圧区画と、真空にさらされた非与圧区画があり、ISSの船内向けと船外向けの、両方の物資を運ぶことができる。搭載できる物資の量は最大で5500kgだという。
また補給船型では、後部にある翼の部分を折り畳むことができるようになっている。アトラスVへは翼を折り畳んだ状態で、フェアリングの内部に搭載され、ロケットからの分離後に展開される。この機構のおかげで、アトラスV以外のロケット、たとえば欧州の「アリアン5」ロケットへの搭載も可能だという。
「ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム」、ドリーム・チェイサーの本体と、その後部に装着される、補給物資を搭載するカーゴ・モジュールから構成される (C) SNC |
ドリーム・チェイサー・カーゴ・システムは翼を折り畳むことができ、打ち上げ時にはアトラスVロケットのフェアリングの中に収められる。 (C) SNC |
そして最大の特長は、ISSから研究成果などを地球に持ち帰れること、そして翼があることで帰還時にかかる加速度が小さいということにある。ISSからものを持ち帰る能力は、スペースXのドラゴン補給船にもあるが、ドラゴンはカプセル型で、またパラシュートで海上に着水するため、帰還時にかかる加速度は最大3.5Gと大きい。しかしISS内の実験で生み出された成果物の中には、壊れやすく、丁寧な扱いが必要なものもある。ドリーム・チェイサーのその翼のおかげで最大でも1.5Gほどの加速度しかかからないため、繊細な物資を持ち帰る際に真価を発揮する。
またNASAは、ドラゴンやシグナスとはまったく異なるシステムであることも選定理由として挙げている。ドラゴン、シグナス、そしてドリーム・チェイサー、それぞれ宇宙船の運用方法も、打ち上げるロケットも異なっている。たとえば万が一、ドラゴン、あるいはシグナスになんらかの問題が見つかり打ち上げられなくなっても、共通点のないドリーム・チェイサーはその影響を受けず、打ち上げを継続できる。もちろんこれはドリーム・チェイサー側に問題が起きたとしても同様のことがいえる。
かつて2014年10月にはシグナスが打ち上げに失敗し、さらにシグナスが運用停止中の2015年6月にはドラゴンも失敗。一時期、民間の補給船が一切打ち上げられないことがあった。NASAとしては、今後同様のことが発生しても、まったく異なるシステムをもつ補給船を持っておくことで、補給が途絶えることがないようにしたいという考えがあるのだろう。
夢の翼が羽撃く日
シエラ・ネヴァダは2015年10月7日に、2016年初頭ごろに2度目の滑空飛行試験をおこなうことを目指していること、また宇宙飛行をおこなう実機の製造も進んでいることを明らかにしている。実機の製造はロッキード・マーティンが担当しており、同社内にある特別開発チーム「スカンク・ワークス」が培ってきた技術が活用されているという。
現時点ではまだ、宇宙への初飛行の予定日は発表されていない。ただ、ISSへの補給が始まる2019年よりも前に試験飛行が行われることは間違いないため、来年か再来年ごろには、ドリーム・チェイサーが実際に宇宙を飛ぶ姿を見ることができるだろう。また有人宇宙船型の開発も終わったわけではなく、補給船型の次に、いずれ人を乗せて飛ぶこともあるかもしれない。
ドリーム・チェイサーは、スピラーリやBOR-4、HL-20から数えると、実に半世紀もの間、自分自身が宇宙に行く夢を追い続けてきた。そして今、ついにそれが叶うときがきたのである。
【参考】
・RELEASE: NASA Selects Sierra Nevada Corporation's ... | SNC | Sierra Nevada Corporation
http://www.sncorp.com/AboutUs/NewsDetails/2754
・About Dream Chaser | Sierra Nevada Corporation Space Systems | Sierra Nevada Corporation's Space Systems
http://www.sncspace.com/ProductLines/AboutDreamchaser
・NASA Awards International Space Station Cargo Transport Contracts | NASA
http://www.nasa.gov/press-release/nasa-awards-international-space-station-cargo-transport-contracts
・FAQ | SNC's Dream Chaser Spacecraft | Sierra Nevada Corporation's Space Systems
http://www.sncspace.com/Mediakit/FAQ
・The Dream Chaser: Back to the Future | APPEL ? Academy of Program/Project & Engineering Leadership
http://appel.nasa.gov/2011/11/02/the-dream-chaser-back-to-the-future/