冬は脳梗塞をはじめとした脳卒中の症例が増えやすいとされている

「日本人の3大死因」にも数えられている脳血管疾患。その代表例として広く知られているのが脳卒中だ。実はこの脳卒中、冬場の寒いシーズンに症例が増えやすい傾向にあるという。

今回は高島平中央総合病院の福島崇夫医師に、冬の脳卒中リスク増加の原因について伺った。

急激な寒暖差に注意

脳卒中とは、脳の血管に障害が起きて脳組織の一部が死んでしまう病気の総称だ。脳卒中は「血管がつまる」タイプと「血管が破れる」タイプの2つに分けることができ、「ミスター」こと長嶋茂雄さんが発症した脳梗塞は前者の代表例。後者には脳出血やくも膜下出血が該当する。一般的に、日本人の場合は脳卒中患者の約7割が脳梗塞だと言われている。

その脳卒中の患者が冬に増える原因は、気温と関係があると福島医師は解説する。

「屋内と屋外で寒暖の差が激しくなりやすいという点が、冬場の脳卒中多発のベースにあります。気温が低いと人間の末梢(まっしょう)血管は収縮して血圧が高くなりやすいですが、出血性脳疾患のくも膜下出血や脳出血は、血圧の急激な上昇で起こるとされています」。

人間の体は短時間の急激な寒暖差に弱い。寒い屋外から帰宅してすぐにおふろに入るといった行為は、血圧の急激な上昇や下降(ヒートショック)を引き起こし、同時に脳卒中も誘発しているのだ。そのため、「冬場はあまり熱いおふろに入らないで、ぬるま湯ぐらいにした方がよいでしょう」。

冬場の脱水を招く危険な行為

気温のほかにもう一つ、冬場の脳卒中、特に脳梗塞リスクを高める因子がある。それが脱水だ。意外にも、冬でも脱水状態に陥るケースは少なくないという。

例えば、長時間の入浴は汗を招き体内から水分を奪っていく。「外が寒くて、体が芯まで凍えたから……」などと熱々の湯船に意識的に長くつかるようにしたら、ますます脱水のリスクは高まる。お風呂に入る前にコップ1杯の水分を補給するだけでも結果は違ってくるので、意識しておくといいだろう。

暖房器具であるこたつや電気毛布にも要注意。電気毛布で寝床を温め、そのまま眠っている人もいるかもしれないが、これは危険だ。つけっぱなしにして眠ると、不感蒸泄(ふかんじょうせつ: 自覚することなく気道や皮膚から蒸散する水分)で体内の水分が失われ脱水状態になってしまうと福島医師は指摘する。どうしてもこたつや電気毛布を用いたいなら、タイマーで自動的に切れるようにするなどしよう。

そして、飲酒も脱水を促す行為の一つだ。

「アルコールには利尿作用があるため、飲酒は全体的に脱水傾向に働きます。お酒を飲んでから、気分をさっぱりさせるためにサウナに入ろうものなら、かなりの脱水になるでしょうね。気分はさっぱりするかもしれませんが、血液は粘性が高まるため、血管が詰まりやすくなって脳梗塞発症のリスクは高まってしまいます」。

原因把握が予防の第一歩

冬場の脳卒中リスク増大の原因は、「激しい寒暖差に伴う急激な血圧上昇」と「脱水」にあることがわかった。前者は、例えば脱衣所にストーブを置くなどして、湯船との温度差を一定以内にするなどの工夫で防げる。原因をしっかりと把握さえしておけば対処はきちんとできるだけに、しっかりと予防に努めてほしい。

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記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。