昨年11月に発売されたiPad ProとApple Pencil。これ、ほぼ液タブ(液晶タブレット)ですよね? PC接続のペンタブレットしか使ったことのない私が、液タブ初体験としてiPad Pro+Apple Pencilでペイント系アプリを試してみました。その感覚の違いは、かなり面白いものでした。

iPad ProとApple Pencil

Apple Pencilのペアリングはコネクタに挿すだけ。これで緊急充電もできます

通常はLightningケーブルで充電。変換アダプターが付属しています

絵を描くための"自然"な環境

始めに、iOS標準の「メモ」アプリで試し書き。PC接続のペンタブレットと比べると、触れたところに描けるiPadはとても自然な感覚。さらにApple Pencilは普通の鉛筆やボールペンと同じような太さで、先端も細いため、鉛筆を持って紙に描く時のような自然な感覚で向き合うことができます。画面サイズもおおよそA4で、サイズ感も自然です。

iOS 9から搭載されたメモの手描きツールは単体でもなかなか優秀ですが、Apple Pencilを組み合わせると本領を発揮します。滑らかで遅延のない描画、指やスタイラスではキリッとしなかったきついカーブや細かい文字もきっちり描けます。特に鉛筆ツールの筆圧と傾き検知精度にはびっくりす。鉛筆デッサンもできるんじゃないかと思えるほどです。

メモアプリの描画ツールで書いたときの違い

同じ鉛筆ツールでも、傾き検知でタッチが変わります

プロに大好評の「ProCreate」

ペイント系アプリの中でも人気の高い「ProCreate」。プロのアーティストやイラストレーターからも高い評価を得ています。Adobe Photoshopなどのグラフィックソフトを使ったことがある人ならおなじみの機能を多数搭載していますが、インタフェースが違うので最初はメニュー探しに少々戸惑うかもしれません。

Apple PencilはiPad ProにペアリングされていればOK。アプリを起動したらそのまま使い始められます。まずはブラシツールで描画を試してみます。

ProCreate

鉛筆を選択。軽く撫でるくらいからギュッと押しつける筆圧まで幅広く拾ってくれます

ProCreateはブラシを非常に細かくカスタマイズできるのが特徴。ここの調整次第で各種ブラシの使い心地がよりナチュラルになると思います。特に、Apple Pencilを使うなら「ストローク」や、「Pencil」の「チルト」を設定すると大きく特性が変わります。

ブラシを選択し、もう一度タップすると詳細設定パネルが表示。「Pencil」の「チルト」で、ペンを傾けた時の筆跡を変えられます

同じブラシで同じように描いても、チルト設定でこんなに変わります

いわゆるスタイラスペンを使う際に常に課題になるのがパームリジェクト(手のひら検知)です。ProCreateでは特に設定をしなくてもApple Pencilと手を自動で判別してくれるので、自然な持ち方で描くことができます。ただし、手を置いてすぐにペン先が触れないと、手の部分に描画されてしまいます。

手の置き場所を意識せず、自然に描くことができます

拡大縮小・回転は二本指で直感的な操作が可能。たまに手+Apple Pencilのペン先を二点タッチと勘違いするのか、描こうとした時にヘンな動きをすることが

自分なりのカスタマイズがポイント

実際にProCreateで描いたものがこちらです。

写真から輪郭をとってペイント。使用したツールは主に円ブラシ・平ブラシ・鉛筆

完成。コテコテ塗っている感じが気持ちいい描き心地でした

先に述べたように、メニューの配置はPhotoshopなどと多少勝手が違います。

「レイヤー」にはブレンド(レイヤーモード)機能も

レイヤーの透明度やフィルタは左上のメニューから。選択範囲は指で囲んで指定します

この他いろいろと多機能なだけに、自分なりに使いやすいようカスタマイズして、自然に描ける環境を作ることが使いやすさのポイントになると感じました。例えば、ブラシにつては種類が多く設定項目が多岐に渡っていたため、新しいブラシセットを作成してよく使うブラシだけを集め、さらに複製して太さ違いをあらかじめプリセットしました。

ブラシパネルで新規セットを作成。よく使うブラシを複製して集め、太さ違いも用意

また、スポイト機能で色を選択する際に、Quickline(直線描画機能)と誤判定されることが時々あったのですが、今回は直線を使用しないためこの機能をオフにしました。こうして使い込んで自分のものにしていく感覚は、ちょっとアナログっぽい楽しさがあります。

長押しした部分の色を拾って描画色にする「スポイト」機能

線を引いた後にペンを離さず長押しすると直線が引ける「Quickline」機能

長押しの時間で使い分けることができますが、今はQuicklineをオフに

書き終わった作品は、PSDやJPG等で書き出しiCloudなどに保存したり、そのままSNSなどへのシェアも可能。iPad ProではA2サイズ/350dpi(5787×8185px)のキャンバスも作成できるため、印刷用途の作品作りも問題ありませんが、テキストは扱えないので文字を入れる場合はPCや他のアプリとの連携が必要です。

「ギャラリー」ではサムネイルを左へスライドすると「削除」「複製」「共有」のメニューが表示されます

「共有」からネイティブファイル/PSD/JPG/PNG形式で書き出し、SNSやクラウドへ送ることができる

PSDで書き出せばPhotoshopでもレイヤーが保持されます

デジタルとアナログの良いバランス

評価に違わぬ高機能なアプリ。iPad Pro、Apple Pencilと組み合わせると、PC接続のペンタブレットの代用というよりむしろ別物です。ペンタブはファンクションキーやサイドボタンなど便利な機能が用意されていますが、Apple Pencilはそうした機能がありません。しかし逆に、そのおかげで手にしているのがひたすら"描く"ための道具となります。

一方で、画面のメニューや左手のマルチタッチでデジタルツール的な機能も使ってはいるのですが、この種の操作は日頃からiPhoneで慣れているのでもはや身体の一部です。直感的だけど触っているのはデジタルなツールという不思議な感じ。でも、「描く」という動作が無意識に期待する自然な感覚を裏切らない。一周回ってフツウに書く道具になっているわけです。

制作過程を自動的に保存し、動画で再生・書き出しできる機能も

この他、無料の「Paper」や「MediBangPaint for iPad)」など、多数のアプリがApple Pencilに対応しています。使い勝手の相性はアプリが大きく左右するので、自分の描き方や目的に合ったアプリをいろいろ試して探してみてください。

アプリにフォルダのような「スペース」を作り、複数のページを保存できるノートアプリのようなPaper。ペイント機能はシンプルですがかなりユニークです

コマ割りや吹き出しを入れるマンガ向けの機能も充実のMediBangPaint。素材貼り込みヤレイヤーモードを活かしたデジタルイラストらしい使い方に向いています

今回、アプリの機能には細かく触れませんでしたが、iPad ProとApple Pencilで絵を描く感覚は何となく伝わりましたでしょうか? 私は、しばらくペイントアプリばかり使っていたせいで頭がiPad ProとApple Pencilを絵を描く道具と認識しているのか、メールやブラウザなど他のことに使う発想がなくなってしまいました(iPhoneやiPad miniに持ち替えます)。というくらい、絵を描く環境として自然に入り込めるものでした。