日本総合研究所は19日、同社調査部がまとめたレポート「経済の活性化に期待がかかる台湾・蔡新政権--民進党が8年ぶりに政権を獲得--」を公表した。これによると、台湾の新総統に決まった蔡英文氏について、「台中の対話に前向きな発言もみられるなど、急速な台中関係の悪化による景気の一段の下振れは回避される公算」としている。
同レポートは日本総研の松田健太郎氏が執筆したもの。これによると、台湾では、1月16日に第14回総統選挙が実施され、野党の民進党が大勝。民進党による政権獲得は、2000年~08年までの陳水扁政権以来となり、蔡英文主席が初の女性総統に就任予定。また、前回の民進党政権では立法院議席で過半数を確保できず、ねじれにより政策運営が不安定だったのに対し、今回は133議席中、68議席と初の過半数を獲得した。
政権交代の背景として、同レポートでは、(1)国民党・馬政権によるサービス貿易協定の締結、15年11月の習近平国家主席との会談をはじめ中国に急接近する政策運営に対する不満の高まり、のほか、(2)当初の公約として掲げられた「6・3・3政策」(年平均成長率6%、失業率3%以下、2016年の平均所得を3万米ドル)の未達、を指摘。加えて、(3)国民党では選挙直前である2015年10月に総統候補者が洪秀柱氏から朱立倫主席に差し替えられるなど党内の混乱による準備不足も一因になった、と指摘している。
総統選の主要な争点は対中政策だった。輸出や投資先としての中国への依存度は近年緩やかな低下傾向にあるものの、依然中国景気の影響が大(図表1)。こうしたなか、政権交代による台中関係の悪化が懸念されるものの、同レポートでは、「民進党は中国への行きすぎた接近に対して反対しているだけで、かねてから現状の対中関係を維持することを強調。台中の対話に前向きな発言もみられるなど、急速な台中関係の悪化による景気の一段の下振れは回避される公算」としている。
同レポートによると、台湾では輸出の減少を背景に景気が大幅に鈍化しており、経済の立て直しが急務(図表2)という。
経済政策では、TPP(環太平洋経済連携協定)参加やアジア各国とのFTA締結を目指すほか、新産業育成を目的とした「五大イノベーション研究開発計画」などを表明(図表3)。「ただし、これらの政策は効果発現に時間を要し、金融・財政を通じた短期的な景気下支え策も不可欠」としている。
新政権発足は5月20日となるが、「生産の海外シフトや中国企業の台頭により域内産業の活力が低下している状況下、短期・長期双方を見据えた経済構造の改革への取り組みが期待される」と結論づけている。