日本でも徐々に広まりつつある「民泊」を仲介するサイト、HomeAway。滞在場所を探す"ゲスト"と、休日の家として貸し出しのできるスペースを持つ現地の"ホスト"をつなげる、ソーシャルマーケットプレイスです。この米国企業のパリ支局でサーチ・プロジェクト・マネージャーを務めるニコラさんは、世界中の人々と仕事をしています。英語を話し、趣味で習っている日本語の読み書きもスイスイ。IT業界で順風満帆なキャリアを積んできた彼ですが、最近のフランスの労働状況には懸念を持っているようです。
■これまでのキャリアの経緯を教えてください。
フランス東部の街、ナンシーにある大学ではコンピューター・サイエンスを学びました。2000年にパリのweb会社に就職し、それから10年間は様々な会社で、銀行やネット通販、メディア向けなどあらゆる分野のシステム開発に携わりました。Tf1(ヨーロッパを代表するフランスのテレビ局)に勤務していたときもweb制作を担当していましたが、同時にプロジェクトマネージャーと共にSEO部門で仕事を始めました。
今の会社に転職したのは、以前の会社の方針に共感できなくなったからです。数社で面接を受けましたが、Tf1で一緒に働いていたプロジェクトマネージャーが誘ってくれたのと、世界規模で働くという初めての経験ができるのではと思い、HomeAwayに決めました。ここで仕事をして5年になります。
■現在のお給料について教えてください。
現在のお給料は月3,400ユーロ(約43万円)とプラスボーナス。この業界で15年間のキャリアを積んでいるので、これくらの金額になりますが、フランスの平均的な額は2,800ユーロ(約35万円)なので、金額には満足しています。
■あなたの国の労働環境に満足していますか? 不満はありますか?
仕事を始めて15年になりますが、その間失業したのは2カ月だけです。ラッキーですよね。IT業界で新しいスキルを身に着けられる環境にいることと、開発からSEOに仕事をシフトしたためだと思います。今はアメリカに本社を置くグローバル企業にいるので、労働環境も典型的なフランス流ではないと思います。
フランスの労働環境はますます厳しくなっています。政府は失業率低下を目標に企業への規制緩和に乗り出し、日曜日の出勤が可能になったりしています。失業率は下がったかもしれませんが、「勤務時間が少なくなった」「給料が安くなった」という問題が出てきています。収入が低くて家賃が払えず、ホームレスにならざるを得ない人もいるのが現状です。これは世界で共通する傾向じゃないでしょうか。人口が急速に増え、テクノロジーも向上している今、マシンが人間の代わりをするようになってきています。まもなく運転手のいらない車が普及すると言われていますが、このようなことが増えれば、仕事が減るのも自然な流れなのでしょう。
フランスでは20年程前に、1週間の労働時間が35時間に定められました。当時は得策だったのですが、今では政府も労働組合も「フランスの企業の競争力を阻むもの」として、撤回したいと考えています。私には、給料は上げずに多くの人を働かせたいという口実にしか聞こえません。社会主義国であるはずのこの国やメディアが、労働コストにばかりを取り上げるのは、働く人々への侮辱だと思います。もっと仕事の質について考えてもらいたいものです。日々の労働をお金にしか換算できない政府のもとで、どうして仕事へのモチベーションを保てるでしょう? 残念です。
フランスの競争力は、サービスの質や研究力で高められるはずです。政府が研究費を削減するようになっていますが、これは目先の利益に目を奪われたとしか思えません。ハイレベルなテクノロジーの研究は国に競争力をもたらし、企業は世界での存在力を高め、ひいては人々に十分な給料を支払えるようになるのです。こうした政府の決断は、世界におけるフランスの影響力を弱めることになると思います。フランスは社会主義の国といっても、ビジョンのない政府のもと、またネット通販など新しい消費体系の普及があいまって、残念ながら労働環境は下り坂です。