一番近くの駅からでもバスで5分。そんな、ちょっと利便性に欠けているのに平日でも買い物客であふれている商店街が東京都江東区にある。それがここ、「砂町銀座商店街」だ。
「バスで行く」となると途端に面倒に感じそうなものだが、この商店街はそれを押してでも行くべき! と言えるほど面白い。何しろその活気や、食べ歩きのできるお店の豊富さは他に類を見ないものなのだ。さらに、派手な観光地化がされておらず、"本来の東京の下町"の雰囲気に浸れるのも大きな特徴。お店の人がフレンドリーで陽気なことも多いため、まるで地元民になった気分で思う存分楽しめる。
戦後、焼け野原になっても戻りたくなる場所
戦前から続く砂町の商店街。戦争の後は焼け野原となってしまっていたのだそう。しかし人々は同じ場所に戻り、再度商店街を築いていったという。
そうまでして大切にされてきた砂町銀座商店街。実際にその中に入ってみると、ヘンな話、確かに愛情を感じる。670mという意外と長い商店街にはチェーン店は数えるばかりで、あとはぎっしりと個人商店が商いを行っている。それも、路上にせり出すように魚や果物を並べ、威勢のいいかけ声で呼びかけるという、昔ながらの方法で。
数十円~200円程度のお惣菜が並ぶ並ぶ
とにかくここでは食べ歩きをせずにはいられない。"数歩歩けばお惣菜屋に当たる"というほど食べ物屋だらけで、数十円~200円程度のものも豊富。今にもイガグリ頭の子供が小銭を握っておやつを買いにやってきそうなほどだ。
しかし、第一に知っておきたいことがひとつ。それは、ここには水曜日に来てはいけないということだ。商店街に入ってみるとすぐに魚屋が多いことに気が付くだろう。それはここが築地にほど近いことに関係している。
彼らは築地で魚を仕入れ、販売している。そのため、築地が休みの水曜日には多くの店がシャッターを下ろしてしまっているという。それにつられて、魚屋であろうとなかろうと、休みのお店が多い。同様の理由で日曜日も休みのお店は多いとのことだが、さすがにお客がやってきやすいためか開いているお店もあるようだ。
うなぎだって食べ歩きできちゃう
高級食材として知られるうなぎ。しかしここでは、その常識を覆す"食べ歩きできるうなぎ"があるという。うなぎの倶利伽藍(くりから)専門店「ウナクリ5」では、築地で仕入れたうなぎが、まるで焼き鳥のように串焼きにされている。「くりから」は1本250円と、焼き鳥よりも高価なものの、うなぎでこの値段なら妥当だろう。何より珍しい。
これは食べずにはいられないとばかりに注文すると、店頭のくりからを再度焼き、タレをジュ~っと含ませてくれる。香ばしい串のうなぎは手にするだけでテンションが上がる。
フランクフルトがなんと1本60円!
コロッケやメンチカツなど、人気のお惣菜が並ぶ「アンデス」。端にあるボックスには「アンデスやきやきフランク1本60円」の文字が! 自社工場より直送しているためにこの価格とのこと。さらに、9が付く日は50円に値下げ。分厚い「厚切りベーコン」は1本150円。
マグロがメンチカツに!
やはり食べ歩きといえばメンチカツ。しかし、ここで注目したいのは「手作りの店 さかい」のマグロのメンチカツ(250円)しかも巨大! やはり築地で仕入れたマグロを使用し、タマネギと一緒にメンチカツにしたのだそう。かなり食べ応えがあるが、肉よりもさっぱりしていてサクサクだ。
自家製の漬物は晩ご飯の一品に
漬物屋というと、現代っ子ではあまりピンとこない人も多いかもしれない。ところがこの商店街では、大根や白菜など、昔ながら漬物がたんまり入った樽が当たり前のようにドンと置かれている。
そのひとつが「染谷」。漬物だけでなく、今晩の食卓に欲しくなるようなおかずがズラリと並べられている。イマドキのオシャレなマルシェチックなものではなく、大きなトレーに山盛りになっているお惣菜だ。食べ歩きには不向きなものの、流行に流されない雰囲気に吸い寄せられずにはいられない。
漬物にはセロリの「しょうゆ漬け」(300円)といったような珍しいものも多数。ほとんどは自家製とのこと。セロリはしっかりと漬かっているためか筋っぽくもなくかなり食べやすい。野菜不足の解消ができそうだ。そのほか、甘辛く煮た「厚揚げの肉詰め」(160円)を購入したら、しっかりと汁も入れてくれた。きっと白米との相性もバッチリなはず。晩ご飯が楽しみになる一品だ。
中国のおかず系おやつも
この商店街には中華のお店も数店あるようだ。中華料理店「永晶園」の店先では「餡餅(シャーピン)」を焼いていた。シャーピンとはもちっとした生地を平たく焼いたもので、中に餃子の具が入っている。中国ではおやつに食べたり、おかゆなどと一緒に食べたりすることもあるのだとか。
シャーピンは1個230円。「ビール」(350円)も販売しているため、飲み歩きも楽しめてしまう。平日は具が1種類だが、休日には他の具も作っているとのこと。友だちとひとつずつ買って食べ比べをしてみても楽しいだろう。
あったかい甘酒でホッと一息
「歩いたし、食べ過ぎたし、少し休憩したいな」と思ったら、結構お休みスペースが見つかるのがこの商店街のいいところ。お店の片隅にちょっとしたテーブルとベンチが用意されているところが意外と多い。商店街をウロウロしつつチェックしておくといいだろう。
「銀座小花」は、たこ焼き屋であるのに「甘酒」(100円)も売っている。たこ焼きを買わずに甘酒だけを買ったところ、「座って飲んでって」とのことでお店の横にあるスペースでしばし休憩させてもらった。楽しさでワクワクしていると気付かないが、座ってみると急に「ふぅ」と力が抜けることもある。気持ちとお腹を休めつつの散策がいいかもしれない。
このほか、複数の焼き鳥屋、揚げ物屋、さらにおでんやケバブを食べ歩きできるお店もある。食は人を幸せにしてくれるもの。心とお腹を満たしに砂町銀座商店街を訪れてみてはいかがだろうか。砂町銀座商店街へのアクセスは、東京メトロ半蔵門線「錦糸町駅」・東西線「東陽町駅」、都営新宿線「西大島駅」、総武線「亀戸駅」からバスで5~15分となる。
※記事中の価格・情報は2016年1月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール: 木口 マリ
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。