子どもたちはさまざまな視点でがんについて学んだ

東京都墨田区は2015年12月、同区内では初となるがん教育のモデル授業「がんのことをもっと知ろう」を、墨田区立業平小学校の6年生を対象に実施した。保健学習の一環として行われたこの授業に用いた教材は、がん教育を検討する過程で区や教育委員会らが共同して作成したもので、このようなケースは全国的にみても珍しいという。

教員やがん患者、区、教育委員会が一丸となってモデル授業を実施した目的は何なのか。墨田区 保健計画課の松本静さんに伺ったので、2回にわたって紹介する。

モデル授業のきっかけ

モデル授業のそもそものきっかけは、2012年6月に閣議決定された「がん対策推進基本計画」にがん教育の推進が盛り込まれたことだった。それとは別に、2013年における墨田区のがんの死亡率は、男性が23区中7位で女性が同1位と、がんの死亡率が高いという素地もあった。

これらの現状を受けて、区は2014年に「墨田区がん対策基本方針」を新たに策定。「がんによる死亡者数を減らす」などの基本目標を達成させるため、4つの個別目標を設定した。その中の一つに「がんに関する正しい知識を持つための健康教育・普及啓発活動の推進」も盛り込んだ。

複数の目標を達成させるため、区長の付属機関として「がん対策推進会議」を設置。その下部組織として「がん教育部会」を設け、子どもたちへのがん教育の在り方を検討していった。教育部会ではがんの有識者やがん患者、教育関係者らが一堂に会し、何度も検討を重ねて教材作りを進めていった。

「がん教育部会にはがんに詳しい日本女子体育大学の助友裕子先生をお招きして、先生からいただいた資料をベースに、墨田区に見合った教材を作成していきました」。

話し合いやクイズでがんの知識を深める

そして迎えた2015年12月3日、業平小学校でモデル授業が実施された。多くの子どもたちはがんにまだ接したことがないため、「予防」という観点を子どもたちとがんをつなげる"架け橋"として、理解を進めてもらうように工夫したという。

「授業は、がん予防につながる生活習慣やがんの死亡率が高いこと、今は2人に1人ががんになる時代だということなど、できるだけがんを科学的に理解してもらうよう進めていきました」。

「がん予防をするために大切なこと」というテーマで複数グループに分かれて話し合いをしたり、授業で学んだことをクイズ形式で復習したりして、がんについて正しい知識を深めていった。

がん経験者の話で命や家族の大切さを知る

授業内容は「机上」だけにとどまらなかった。同11日には、乳がんを患った経験があるがん教育部会の委員が、自身の体験談を子どもたちの前で告白。子どもたちにがんについて語るのは初めての経験だったそうだが、「命の大切さについて、きちんと子どもたちへとメッセージを送ってもらえました」。授業後に実施した子どもたちへのアンケートでも、「家族を大切にしたい」「家族と一緒にいることが大事」などの回答が目立ったそうだ。

紙の教材だけではなく、実際のがん体験談という「生きた教材」に触れることによって、子どもたちはがん検診の大切さやがんの治療、緩和ケアまで踏み込んで学べた。「がん患者の話を聞いて命の大切さを知り、がんに対する偏見を緩和・減少してもらえば」と願っていた松本さんも、体験談授業に手ごたえを感じているようだ。

ただ、業平小学校での授業は、墨田区が掲げる目標の序章でしかない。次回は、モデル授業の今後の展開について紹介する。

※写真と本文は関係ありません