また、高尾氏はアイキューブドシステムズの「CLOMO MDM」と「CLOMO SecuredContacts」を導入したことで、セキュリティを確保しながら電話帳の情報管理がしやすくなったことも大きいと話している。

実際に現場からも、「PHSの時は内線の番号を赤外線で1台ずつ手作業で更新していたため非常に手間がかかったが、CLOMOでは電話帳の一斉更新が可能となるため、異動などがあった場合も即時にその情報を全台に反映できる」(東京慈恵会医科大学附属病院 事務部管理課 主任 村上 聡氏)との声が上がっているようだ。

慈恵医大との共同研究契約をもとに訪問研究員を務めるアイキューブドシステムズ 取締役の畑中 洋亮氏によると、同大学と共同研究を進めている「CLOMO IDs」のチャット機能が好評なようだ。12月1日の開始当初は約250人の利用だったが、2週間後には約400人まで増加。「すでに利用している人が他の利用者にチャットで話しかけることで伝播し、ネットワークが広がっている」と畑中氏は推測しているようだ。

同アプリには、ほかにもプレゼンス機能として互いの勤怠や位置情報の把握機能があるが、プライバシーの問題もあるため、活用方法について学内で慎重に協議しているという。まずは顔写真が見える連絡帳、チャットアプリとして活用してもらうことで入り口を広げつつ、現場でのスマートフォン利用シーンを拡大していきたいとしていた。

慈恵医大では「CLOMO」を用いることで、セキュアなモバイルワーキング環境を構築しているとのこと

慈恵医大の研究員としてモバイルシステムの共同研究を進めている、アイキューブドシステムズの畑中氏

また、慈恵医大での意外な活用事例としては、CLOMOのデバイス管理ツールの"プッシュ"による一斉通知機能がよく利用されているとのこと。

東京慈恵会医科大学附属病院 事務部管理課 係長の安部 一之氏の話によると、PHSを利用していた際、「手術室が満杯になっている時、一般外来で手術が必要な患者がいた時などに、外来診察の医師が情報をタイムリーに把握できず手術室の受け入れをストップできないトラブルがあった。そうした時に、現場の医師へ、一斉メールを手動で宛先を選びながら情報送信をしていた(メーリングリストの宛先数制限から、個々のアドレスを入力する必要があった)」という。

しかし、PHSの廃止で一斉メール配信機能が使えなくなったことから、その代替に活用したプッシュ通知だが、通知者の選択や送信が簡単にできる分、PHSより一斉通知がしやすくなったとのことだ。こうした現場ならではの使い方を聞くことで、医療機関におけるニーズや使われ方の検証をしながら、機能拡充に向けた取り組みを進めていると、畑中氏は話している。

CLOMO MDMの一斉通知機能によって、手術室の受け入れに関する情報共有がよりやりやすくなったとのこと

さまざまな機能をスマートフォンに集約

ナースコールに関しても、従来ポケットベルでの対応であったのが、アイホンの「Vi-nurse」を導入し、スマートフォン対応を進めた。ポケットベルでは、ナースコールを受信してから実際に返事するまで、時間がかかっていたものの、スマートフォンによって即時対応が可能になったという。

また、Vi-nurseの導入によって、受信コールの種類が増えたのも大きなメリットの1つだという。従来は、コールの種類が「通常」「緊急」「トイレから」の3種類しかなかったが、その種類が増えたことで、コールが緊急なのか、待ってもらえるのか判断しやすくなったとのことだ。

アイホンの「Vi-nurse」を導入し、ナースコールもスマートフォン対応を進めた。写真はナースコールを確認できるボードPCナースコール

ナースコールが着信すると、iPhoneに通知が現れるようになっている

日々の業務改善にスマートフォンの活用が進められている慈恵医大だが、医療面では、スマートフォンの導入がどのようなメリットをもたらすと考えているのだろうか。

この点について高尾氏は、「MySOS」「Join」「Team」という3つの慈恵医大との共同開発によるモバイルアプリシステムを挙げる。これらを活用することにより、患者の情報や医療業務を連携させて一気通貫の対応を図ることがメリットになるというのだ。

「MySOS」は、患者の既往歴や内服薬、健康診断情報、さらには検診データや画像などをこのアプリ内に取り込める。これにより、診察時に医療従事者に対して正確な情報を提示できる効果が期待でき、従来曖昧となっていた患者の情報を、確実に得られるようになることから、何度も検診や採血をする必要がなくなるメリットがあるという。今後はマイナンバー制度の進歩にともなって連携も視野に入れている。また、一般向けのモバイル医療アプリとしても、位置情報をもとに周辺の自動体外式除細動器(AED)の位置や、救援依頼する機能があるほか、一次救命ガイドや小児救急ガイドなどのコンテンツが用意されている。

「Join」は、LINEを踏襲した医療従事者向けのコミュニケーションアプリ。リアルタイムでメッセージのやり取りができるだけでなく、医用画像や手術のライブ映像などを、外出先の医師と共有し、アプリの中で協議できる仕組みも備えているのが大きな特徴だ。

医療機関には常に専門の医師がいるとは限らないが、専門の医師と連絡をとりアドバイスを受けることで、専門外の医師であっても適切な対応ができるようになる。転じて、僻地での医療や、医師不足の解消などに役立てられ、医療コスト削減につなげられるという。ちなみにJoinは日本製のアプリだが、すでに米国やブラジル、台湾などで導入実績があるとのことだ。

患者が自身の健康・検診に関する情報を「MySOS」で持ち歩くことで、医師が確実に患者の情報が得られるようになる

医療従事者向けのコミュニケーションアプリ「Join」を使えば、医用画像などを簡単に共有できるので専門の医師からアドバイスを受けることができる

最後の「Team」は、地域を包括してケアするクラウドシステムだ。現在、介護の領域においてもヘルパーや看護師などが医者の判断を求めるケースが増えている。そこでTeamを活用し、スマートフォンを使って食事の回数など日頃の患者の情報を共有する。こうして統計をとることで、医師が的確なアドバイスができるようになるとのことだ。

高尾氏が明かした今後の計画では、この1月に病院を訪れる患者などに対してWi-Fiを無料開放し、待ち時間のイライラ解消に繋げるそうだ。

さらにその後は、iBeaconを用いた院内のナビゲーションや、診察券のデジタル化、モバイル会計システムの導入を検討している。また、2020年に向けてアスリートを含めた外国人の対応がしやすくなるよう、翻訳サービスの導入も目指している。