病院における携帯電話の利用制限が緩和されたことを受け、スマートフォンを活用したICT利用の拡大を進めているのが東京慈恵会医科大学だ。

これまで医療機器に影響を与えるとして、医療機関では利用が進まなかった携帯電話。しかし、2014年8月に電波環境協議会が「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」を打ち出し、実質的に携帯電話の利用が解禁されたことから、医療機関でスマートフォンを活用し、ICT化を促進しようという動きが見られる。

中でも、スマートフォンの活用に積極的に取り組んでいるのが東京慈恵医科大学だ。慈恵医大では2015年10月に、スマートフォン約3200台を含む、約3600台のNTTドコモの携帯電話を導入したと発表。スマートフォンを内線やナースコールなどさまざまな用途に活用していくことを表明した。

その慈恵医大が2015年12月に記者向け説明会を実施。モバイルを医療の現場にどのように活用していくのか、具体的な取り組みについて説明した。

導入するスマートフォンはiPhone

慈恵医大 准教授の高尾 洋之氏は、スマートフォン導入の背景について「(大規模イベントが開催される)2020年に向け、東京の顔となる存在感のある大学を目指していた。そこで新しい病棟を新築するに当たり、ICTが欠かせないという判断から導入を決定した」と話している。いち早くICT化を進めることで、大学としての存在感を示す狙いがあったようだ。

慈恵医大 準教授 高尾 洋之氏

慈恵医大ではこれまで他の医療機関と同様、電波出力が弱いとされるPHSを内線用途として活用してきた。2014年の規制緩和を受けてスマートフォン導入に至った訳だが、それでもスマートフォンの電波が、医療機器にどの程度影響を及ぼすのかは未知数な部分もある。

高尾氏によると、先の指針においては携帯電話端末を「医療機器と1m以上離すことを推奨」するとある一方で、1m以内での利用に関しては、病院側の判断に任せられているという。

そこで慈恵医大では独自に、携帯電話の電波がさまざまな医療機器に与える影響を調査。その結果、PHSであっても電波環境が悪く、出力が最大となる場合は38cmの距離で機器に影響を与える場合があったとのこと。電波状態が良ければ、PHSは6cm、携帯電話は2cmで初めて影響が出た(医療機器に直接端末を置くor患者を抱き抱えるといった状況でここまで接近する可能性がある)。

電波状態によってはPHSでも影響を与える場合があることから、スマートフォンを導入する上では、「電波状況を改善すること」が医療機器に対する影響を抑える最良の策であると判断し、NTTドコモと協力して電波塔建設含めて、院内の電波状態改善を進めたとのことだ。また、医療機器メーカー側にも携帯電波で影響を受けないような改良を要請していくとしている。

慈恵医大で検証したところ、電波状況が悪い所ではPHSでも38cmで医療機器に影響を与えることがあったという

また、スマートフォン導入にともなって、院内患者といった一般向けの「携帯電話利用ルール」に関する説明も、すべての利用を禁止してきた従来のものから内容を変更。診察室や手術室などを除いてスマートフォンの利用を許可する一方、通話に関してはマナーを守って利用するよう、説明を加えている。一方で医療者はどこでも利用できるが、患者データが多いため、モラル・マナーの教育を継続的に実施していると出席した看護師長がコメントしていた。

ちなみに慈恵医大が導入したスマートフォンは、すべてAppleのiPhone 6になるとのこと。その理由として高尾氏は、「機種選びをする上で、多くの人に利用してもらうためにも、モデルチェンジの回数が少なく形状が大きく変わらない上、同じ機種を多数揃えられることが重要だった」と話している。なお、導入した約3200台のiPhoneに加え、破損や紛失時のバックアップのため、在庫も100台程度保有しているとのことだ。