「戦略がすべて」
瀧本哲史 著

東芝やソニー、シャープなど一時代を築いた家電業界の凋落に表われているように、かつてのモノづくり日本の姿はその輝きの一部を失いつつある。国力の一端を示す国内総生産(GDP)は米国、中国に次いで第三位に位置するも、国民1人当たりのランキングでみると、2014年は前年比6%減の3万6,200ドルと円安の影響もあって過去最低の順位まで落ち込んだ。

かねて日本の力強さの源はその現場力にあったともいえるだろうが、少子高齢化が進む中で翳りが見え始めている。このような日本にとって、今、必要なことはなんなのだろうか。

12月に刊行された「戦略がすべて」(瀧本 哲史 著)は、帯に「バカは市場で勝ち残れない。」とうたうように、世界を支配する側に立つための戦略的思考を手に入れようとする人に向けたケーススタディ集だ。

戦略と作戦と戦術

戦略(Strategy)、作戦(Operation)、戦術(Tactics)。もともとは軍事用語だが、ビジネスの場でも取り挙げられることが多いこれらの用語(さらに兵站が加わることも)。その違いを正しく理解しているだろうか。

戦略は、ビジネスや軍事に関わらず、つまりは目的を達するためのシナリオとなる。作戦は、そのシナリオを実現するためのプロジェクト、戦術はプロジェクトの遂行にあたってのさらに具体化された方策となる。そして、当然のこととして、これらを通して利益を上げていかなければならない。

Googleを例にすれば、同社が掲げる「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を実現するシナリオが戦略にあたり、作戦はGoogle検索をはじめとし地図や動画などの各サービスにあたる。戦術は、これらのサービスをいかに多くの人に使ってもらいあるいは情報やコンテンツを投稿してもらえるようにするかの具体的な施策に相当する。

この三段階において「戦術の失敗は戦略でカバーできるが、戦略の失敗は戦術ではいかんともしがたい」というのが定石となっている。冒頭に挙げたシャープや東芝の例を見るまでもなく、現在の日本の姿を象徴的に表しているといえるだろう。

その中で著者である瀧本 哲史氏は「戦略的思考」の重要性を説く。曰く「戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ」と。

戦略的に考えるということは、競争においてまったく違ったルートを開拓したり、あるいは競争のルールを変えてしまうことである。マラソンのように同じタイミングでスタートし、ゴールを目指してコースを辿る……多くの日本人がイメージする競争は、しかし、実際の競争の姿とは異なっていると著者はいう。

本書は、この戦略的思考について24のケーススタディを挙げている。

一例を紹介すると、タレントビジネスには「どの人材が売れるかわからない」「稼働率の限界」「(売れれば売れるほど)主導権がタレント側に移る」といった3つの壁がある。そしてこれらの課題をうまく解決しているのが、AKB48に代表される「複数のタレントを包括するシステム、すなわちプラットフォームを作り、そのシステムごとまとめて売ろういうもの」だという。

10~20年後には労働者の半数の職業がITによって失われる

株価上昇、爆買いに象徴されるインバウンドの消費拡大など明るい兆しがある反面で、格差の拡大も指摘される日本。10~20年後には、約半数の国内労働者が従事する職業が人工知能やロボットといったITによって取って代わられるという予測(野村総合研究所)もある。

ビジネスのみならず、個人の生き方を考える上でもヒントになる同書、1年の始まりにぜひ読んでおきたい。戦略的に勝つことを考えるよいきっかけとなるだろう。

戦略がすべて」(新潮新書)

著者:瀧本哲史
出版社:新潮社
発売日:2015年12月17日
ISBN:978-4-10-610648-4
定価:780円+税