今年の最高視聴率22.3%(朝ドラを除く)をたたき出した『下町ロケット』が大団円を迎えるなど、2015年の連続ドラマは全て終了。今年も定番の「刑事」「医療」から、「ヒューマン」「家族」「学園」「SF」、そして復活の兆しを見せた「恋愛」まで、さまざまなジャンルの作品で楽しませてくれた。

ここでは「朝ドラから深夜ドラマまで全作品を視聴している」ドラマ解説者の木村隆志が、一年を振り返るべく、「業界のしがらみや視聴率は一切無視」して、独断のみでTOP10を選んでいく。

10位 誰にも媚びない失笑の世界『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)

山田孝之

深夜枠とは言え、これほどのイレギュラーなコンセプトは見たことがない。エッセイコミックを連ドラに、しかもクセ者俳優・山田孝之を起用したフェイクドキュメンタリーで、共演者はディープタウン・赤羽の一般人ばかり。しかし、固定カメラや手持ちカメラで「ただ撮っているだけ」のような映像が、妙なおかしさを醸し出していた。

この不思議な世界観を創出した立役者は、山下敦弘監督、松江哲明監督のドキュメンタリー名手。「もともと連ドラではなかったものをテレビ東京に持ち込んだ」という背景も含めて、とにかく異例の脱力感で満ちていた。

短編作品『ザ・サイコロマン』、TENGAのTシャツ、マジ説教するジョージさん、下ネタ連発のワニダさんなど、失笑必至のネタが目白押し。とりわけ赤羽の住民たちは、どんな名優でも醸し出せない"テレビに出してはいけない人"の境界線を越えていた。

そもそもこの作風では、山田の類いまれな演技力を出し切ることはできない。ただ、山田も監督も視聴者に媚びる姿勢をみじんも出さず、それが爽快感さえ呼んでいた。「ただやりたいことをやっているだけ」であり、「絶対に笑ってほしい」なんて意気込みはなかったのだろうか。

これといったストーリーも盛り上がりもなく、「この作品をドラマと呼んでいいのか?」という答えは出ないが、「そんなことはどうでもいい」と思わせてくれる魅力があった。

9位 「お金を払ってでも見たい」奥深い深夜ドラマ『おかしの家』(TBS系)

オダギリジョー

「ドラマ好きほどハマる作品だった」と言ってもいいだろう。秋から新設された深夜ドラマ枠の第1弾だけに「放送されていたことすら知らない」人も多かったが、脚本、演出、演技、さらに美術も含めたクオリティはゴールデン帯をしのぐものがあった。

その立役者は、脚本・演出を手がけた石井裕也。映画『川の底からこんにちは』でブルーリボン賞監督賞を当時28歳で最年少受賞したほか、『舟を編む』では米国アカデミー賞外国語映画部門・日本代表に選ばれ、日本アカデミー賞でも最優秀監督賞を受賞した若手屈指の映画監督だ。石井が「初めて手掛ける連ドラ」という意味も含め、映画館へ行くように「お金を払ってでも見たい」と思える作品だったのではないか。

「下町の駄菓子屋」という舞台、「主人公と祖母の2人暮らし」という関係性だけでノスタルジーを感じるが、映像は相反するようにスタイリッシュ。緻密なセットと繊細なライティングも、ワンカットごとに余韻を残すようなカメラワークも、プロフェッショナルの仕事だった。

オダギリジョー、勝地涼、尾野真千子、八千草薫らが見せた力みの抜けた演技も、その世界観に違和感なくフィット。駄菓子屋でのゆるい会話の中に、夢、過去の痛み、厳しい現実などの大きなテーマを潜ませた脚本も素晴らしく、終盤の切ない展開に涙し、身につまされた人も多かっただろう。わかりやすさを重視した作品が増える中、「気軽に見られるけど、考えさせてくれる」同作の存在は貴重だった。

8位 火9枠ラスト作で意地を見せた『ゴーストライター』(フジテレビ系)

中谷美紀(左)と水川あさみ

ドラマは、佐村河内守と新垣隆のゴーストライター騒動が記憶に新しい1月にスタート。『アナ雪』のヒットを踏まえてか、女性ウケのいい中谷美紀と水川あさみのダブルヒロインが起用され、初回のオープニングから激しいバトルが見られた。

ストレートなタイトルで誤解されがちだったが、当作は単にゴーストライターの苦悩を描いた物語ではなく、利用される側の反撃と、利用していた側の失脚など、次々に立場が逆転。心をえぐるようなセリフの応酬と、ドキドキハラハラさせるサスペンスのムードは、ヒューマンドラマの名手・橋部敦子らしい脚本だった。

「2人が抱える心の闇を"影"、そこから抜けだすための希望を"光"に見立てた」映像美も含め、繊細な制作スタンスはもっと称賛されてしかるべきもの。作家を手玉に取る田中哲司、作家を献身に支えるキムラ緑子などの助演にもしっかり見せ場が用意され、救いを見い出した結末も見事で、低視聴率に負けず最後まで作品のカラーを貫いた。

しかし、同作を最後に『古畑任三郎』『ナースのお仕事』『踊る大捜査線』『救命病棟24時』などの名作を生んだフジテレビの火曜9時枠は打ち切り。「これだけの良作を放送したのに、視聴率が取れなかったから仕方ない」ではなく、「これだけの良作だから、もっとPRしなければいけなかった」「録画視聴者の対策が必要だった」と考えられない以上、今後も9時台の連ドラは苦しい立場に立たされるだろう。このままではドラマ枠がほぼ消滅した7~8時台に続いて、9時台もなくなってしまう。そんな危機感を抱かせてくれた。

7位 「切なく、もどかしい」王道の恋愛ドラマ『恋愛時代』(日本テレビ系・読売テレビ)

比嘉愛未

今年は『恋仲』『5→9』(ともにフジテレビ系)など、制作側が「恋愛ドラマ復活」に意欲を示し、視聴者側も好意的に受け止めていた。中でも、最も揺れ動く恋心を丁寧に描いていたのは『恋愛時代』。物語は「悲しい出来事が原因で離婚した夫婦が、お互いの再婚相手を探す」ところからはじまるが、終始恋愛ドラマに求められる"切なさ""もどかしさ""優しさ"であふれていた。

原作が亡き名脚本家・野沢尚さんの恋愛小説だけに、ヒロインだけでなく、周りのキャラも人物造形がしっかり。どこにでもいる男女の日々をそのまま切り取ったようなシーンが続き、そのやり取りは穏やかでほほ笑ましく、「なかなかうまくいかずイライラ」「つい応援したくなる」という90年代の恋愛ドラマ最盛期を思わせるムードがあった。 とりわけ光っていたのは、誰もが持つ人間の良心や弱さを、ゆったりとしたテンポで描き続けたスタッフのブレない姿勢。ハイテンポな展開と、善悪がはっきりした図式の作品が主流の中、勇気が必要な決断だったのではないか。

さらに、当作はドラマ界初となる「LINE LIVE CAST」での同時生中継を敢行。「ドラマの時間に合わせて、スマホ上で比嘉愛未と満島真之介が出演する生番組を放送し、2人と直接やり取りできる」という画期的な試みで、「解説つきで見られるなんてお得」「テレビとスマホ、どっちを見ていいのか!? でも面白い!」などの好意的な意見が殺到した。私も2人の横でゲスト出演させてもらったのだが、視聴者も出演者も間違いなく楽しんでいただけに、今後この流れが広がっていくような気がする。

6位 金曜ドラマの挑戦がついに結実した『コウノドリ』(TBS系)

綾野剛

脚本や演出のクオリティ以前に、テレビ放送における連ドラは、視聴者からの支持を集めることが第一。その意味で『コウノドリ』は、女性から最大級の支持を集めていた意義深い作品だったと言える。

産婦人科を舞台にしたドラマはこれまでもあったが、当作はかつてないほど「誠実」。入念な事前取材に基づいた脚本は、突出したヒーローを作ることも、奇をてらうこともなく、産婦人科の現実を淡々と描いていた。しかし、派手さを捨てても、小さな命をめぐる展開は常にスリリングで波乱含み。ハラハラドキドキ、そして祈るような心境にさせてくれた。

主人公の綾野剛は文句なしのハマリ役だったが、産婦人科医だけでなく、新生児科医、救命救急医、麻酔科医らとのチームワークを優先させた演出にも好感。綾野、星野源、坂口健太郎など、穏やかなイメージの"塩顔"俳優をそろえたキャスティングも、静かな感動を誘っていた。過去の同系作よりも赤ちゃんの出演シーンが多く、産まれたばかりの小さな子を用意したこともあって、撮影の苦労は大きかっただろうが、続編への期待値は高い。

2010年代に入ったころから、ジブリ映画やスペシャルドラマなど裏番組の攻勢で、TBSの金曜ドラマは低視聴率にあえいでいた。しかし、この2年間は『アリスの棘』『クロコーチ』『家族狩り』『Nのために』『ウロボロス』『アルジャーノンに花束を』『表参道高校合唱部!』と、どのドラマ枠よりもチャレンジを続けてきた姿勢が、ついに実を結んだのではないか。