Microsoftは2015年12月21日(米国時間)、スマートフォン向けチームコミュニケーションツール「Talko」を買収したことを発表した。Skype担当CVPのGurdeep Singh Pall氏は「Talkoの社員はSkypeのチームに参加し、SkypeおよびSkype for Businessの機能拡張に務める」と述べている。
なぜ、この話題が注目に値するのかといえば、Ray(Raymond) Ozzie氏がTalkoの創業者兼CEOだからだ。Ozzie氏は、Bill Gates氏からCSAの席を引き継ぎ、2010年までMicrosoftに在籍した人物である。
1980年代より、Ozzie氏はIris Associatesの創立者兼CEOとして、「Lotus Notes」の発案や開発指揮にあたっていた。その後、1994年にLotus Development社がIris Associatesを買収。Ozzie氏は1997年にGroove Networksを立ち上げ、P2P型のグループウェア「Groove」の開発にあたったが、こちらも2005年にMicrosoftが買収している。
そのような経緯から、同氏は2005年4月からCTO、Gates氏の現役引退発表後の2006年から2010年末までCSAとしてMicrosoftの技術戦略や製品の基礎設計を指揮していた。
ちなみにGrooveは、その後「Microsoft Office Groove」として「2007 Microsoft Office system」の1つに加わり、サーバー版は「Microsoft Office Groove Server」としてリリースしている。本来のOffice Grooveは、仮想空間上でファイル共有やチャット、スケジュールといった情報共有を目的としたコラボレーションツールだった。
だが、その後のOffice Grooveは「Microsoft SharePoint Workspace」に置き換わり、現在の「OneDrive for Business」へとつながっていく。P2P(Peer to Peer)ネットワークからクラウドネットワークへの移行は、IT技術の進化によって可能になったが、Grooveが目指した「個人と個人のコラボレーションを加速させる」というコンセプトは今も色あせていない。
さて、今回の買収についてTalko側は「極めて一部のアプリケーションはウイルスのような成長を実現しているが、その他大勢はニッチのままだ。(中略) 我々はやり方を変える時を迎えた」とコメントした。署名はTalko Teamとなっているが、Ozzie氏の本音が垣間見えるような気がする。
さらに興味深いのは、Pall氏の「Talkoの社員は~」という発言である。肝心のOzzie氏は再びMicrosoftに合流するのであろうか。答えは否だ。Fortuneが掲載した記事によれば、Microsoftへの再合流をメールで否定したという。
MicrosoftがOzzie氏の会社を買収するのは今回で二度目だ。前回(Groove Networks)は、IT技術を吸収してMicrosoft自身を成長させるという目的が明白だったが、今回(Talko)はOzzie氏に助けの手を伸ばしたと見るべきだろう。Talko Teamが自ら述べているようにIM市場は過酷で、極めて一部のアプリケーションしか生き残れないのが現状である。
TalkoはVoIPによる音声通話の録音やタグ付けといったユニークな機能を備えているが、市場を席巻するために必要な目玉機能を持たず、新たなユーザーを開拓するに至らなかった。その意味ではTalko TeamがSkype開発チームに合流するのは互いによい結果となるはずだ。
Ozzie氏は2013年7月以降、Hewlett Packardの役員に名を連ねている(現在はHewlett Packard Enterpriseの役員)。今年で還暦を迎えた同氏が、新たなIT技術で新会社設立にチャレンジするとは考えにくいが、米ZDNetの取材に対して「私はBuilder(開発者)である。次に何を考え出すことを楽しみにしている」とコメントし、意欲を見せている。IT業界の第一線で活躍してきたOzzie氏が選択する次の一歩に我々は注目すべきだ。
阿久津良和(Cactus)