為替市場に関する新聞記事には、その時々の相場のトレンドを示すキーワードが使用される事が多い事は言うまでもないだろう。それならば、新聞記事の傾向を探る事によって相場のトレンドを確認することができるという解釈が成り立つ。そこで、わが国の5大新聞各紙(読売、朝日、毎日、産経、日経)の記事文中に、「円高」という言葉が使われた回数と「円安」が使用された回数を、日経テレコンの記事検索機能を用いてそれぞれカウントしてみる事にした。今回はその結果を報告する。

(図1)

2015年は「円安」が圧倒的

2015年の新聞報道には「円高」よりも「円安」という言葉が使用されるケースが圧倒的に多かった。12月21日までのカウントで「円高」が1989回にとどまったのに対し、「円安」は8165回に及んでおり、「円高」という言葉が1回使われる間に、「円安」は4回のペースで使用された計算になる。ドル/円が6月に約13年ぶりのドル高・「円安」水準へ達した相場展開に鑑みれば、「円安」報道が多かった事は当然の結果と言えるだろう。

報道上の「円安」は減少傾向

もっとも、もう少し長い期間で眺めると、(為替)市場における「円安」の進行と反比例する形で、(新聞)紙上の「円安」は減少を続けている事がわかる。アベノミクス相場の本格化とともにドル/円相場が節目の1ドル=100円を突破した2013年は、「円安」記事が13500件を越えたが、2015年はそのピークを5000件以上も下回っている。「円安」基調も2015年で足掛け4年目に入り、そうした相場環境に対する「慣れ」とともに、「円安」の報道価値が低下したという事だろう。

(図2)

「円高」は4年連続で減少

一方、「円高」という言葉を使った新聞記事は2012年から4年連続で減少している。「円高」記事のピークは、ドル/円が75.32円の史上最安値を付けた2011年の11000件あまりだが、2015年はそこから5分の1以下に減少した事になる。「円安」の報道価値が低下したとはいえ、それ以上に「円高」という言葉は市場のムードにそぐわなくなったと見られる。

12月に限れば変化の兆しも

ただ、2015年末が迫る中、市場からは「2016年は『円高』トレンドへ転換する」との予想がちらほらと聞かれ始めた。日銀が発表する円の実質実効レートで見ると、すでに1年前よりも「円高」にシフトしているとの指摘もある。そこで、2015年12月に期間を限って記事数をカウントしてみると、「円高」が135件、「円安」が320件であった。図1と比べると、やはり「円高」を用いた記事の割合が増加している事がわかる。

(図3)

ムードの変化を注視

こうした為替記事の割合の変化が、今後の相場展開について何らかの示唆を含んだものなのかどうかは、まだ見定めがつきそうにない。ただし、今後は市場のムードの移り変わりを注視すべき、との警報にはなったと言えそうだ。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya