Reutersによれば、小売大手の米Targetが独自のモバイルウォレットサービスを導入する計画だという。現在同社は、Wal-Mart Storesらとともに「Merchant Customer Exchange (MCX)」という業界団体を設立し、「CurrentC(カレンシー)」というモバイル決済サービスのトライアルを進めているが、CurrentCの正式ローンチを待たずしてTargetのモバイル決済サービスが市場投入される可能性があり、MCXの動向に黄色信号が灯ったという意見もある。
モバイルウォレットとは、スマートフォンなどの端末にクレジット/デビットカードやロイヤリティカードなど、複数の個人情報を保存し、何枚もカードを持たずとも1台の端末さえあれば"財布"のように活用できるという仕組みだ。日本ではおサイフケータイなどの名称で知られたサービスもその一種だ。銀行や携帯キャリアなどが各種サービスを提案しているが、最近ではAppleやGoogleのサービスが話題であり、さらに端末メーカーであるSamsungがLoopPay買収により同分野に参入するなど、動きが活発化している。さらに直近では、銀行の米ChaseやLGも参入を発表しており、モバイルウォレット市場花盛りといった印象だ。
これらモバイルウォレットでは支払い手段として、一般にクレジット/デビットカードを登録して利用する。端末に搭載されたNFCなどの無線通信機能を用い、カード情報を小売店の読み取り機に送信して決済を行う。これとは一線を画す形で存在しているのが、冒頭のMCXらが提唱するCurrentCだ。CurrentCが米オハイオ州コロンバスでトライアルサービスを開始したことは先日紹介した通りだが、現時点でCurrentCアプリに登録可能なクレジット/デビットカードは非常に制限があり、実質的に銀行口座を登録して直接引き落としの形態を採っている。これは、クレジットカード利用における手数料徴収をMCX参加企業ら小売店側が忌諱し、間接費用を最小限に抑えられる銀行口座引き落としに変更したいという意図があるといわれている。
一方で、MCXの中核企業で小売最大手のWal-Martは、12月10日に独自のモバイルウォレットである「Walmart Pay」を発表している。Walmart PayはCurrentCとは異なり、メジャーなクレジット/デビットカードのほか、プリペイドカード、同社ギフトカードの登録が可能で、Apple Payなどとの違いは支払いを行うための通信技術がNFCではなく、QRコードをスキャンさせる仕組みという点だ。Wal-Martでは引き続きCurrentCを推進していくとしているが、利便性を考えるとあえてCurrentCを選択する理由は少ないように思える。
CurrentCはMCX参加企業内でシステムを共通化することでコストを削減し、さらにCurrentC参加企業内で同サービスの利用を推進することで、将来的にクレジットカードの利用比率を減らしていくことが狙いと考えられる。TargetはCurrentCの中核企業であるが、同社が計画しているモバイルウォレットは、おそらくWalmart Pay同様に複数のカードを登録でき、支払い方式にはCurrentCと同じQRコードを採用するようなものになると思われる。同社もまた引き続きCurrentCを推進していくとしているが、業界最大手と6位(全米小売協会の2015年データ)がCurrentCアプリ利用のメリットを相殺するような仕組みを自ら用意するのは、同方式のアピールにマイナスな影響を与える可能性がある。両社がこうした動きを見せる背景についてReutersは、CurrentCのローンチが遅々として進まないことがあり、先だって(自らの顧客を囲い込みやすい)独自ウォレットサービス提供へと向かわせているのではないかと伝えている。