米FRB(連邦準備制度理事会)は12月15-16日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利を0-0.25%から0.25-0.50%へ、0.25%幅で引き上げた。これにより2008年12月から続いていた事実上のゼロ金利政策に終止符が打たれた。
先進国の中央銀行が資金を絞り始めると、真っ先に資金が行き渡らなくなる新興国
米国の利上げ開始によって、新興国通貨への影響が懸念されるところだ。新興国の多くは経常収支が赤字であり、それを穴埋めするために国外からの資金流入に頼っている。先進国の中央銀行が金融を緩和して、世界中に資金が有り余っている状況であれば、新興国がその一部を取り込むことは難しいことではない。むしろ、投資機会を求めて大量の資金が流入することで自国通貨高に振れ過ぎるのを警戒することもあるぐらいだ。しかし、先進国の中央銀行がひとたび資金を絞り始めると、真っ先に資金が行き渡らなくなるのが新興国というわけだ。
米国がゼロ金利政策を解除したといっても、わずかに0.25%利上げしただけだ。日銀は引き続き大量に国債を購入しているし、ECB(欧州中央銀行)は先ごろ国債購入の期間を延長して金融緩和を強化した。その意味で、世界中にあふれる資金が急激に収縮するわけではないだろう。それでも、米国が先駆けとなって世界的に「金融正常化」が進むとの連想は、新興国通貨にとって良い材料とは言いがたい。
過去の事例は、上述した懸念が杞憂に終わる可能性を示してはいる。米FRBが2004年6月に利上げを開始したケースでは、利上げ開始の少し前に新興国通貨は調整局面を迎えたが、利上げ開始後は上昇を続けた。そして、利上げ打ち止め前にも調整局面はあったものの、利上げ打ち止め後も上昇を続けた。新興国通貨が大幅な下落に見舞われたのは、その後のリーマンショックによってだった。
新興国通貨の反発は、資源価格の反発が大前提
ただ、残念ながら、前回の米利上げ局面の経験が繰り返される可能性は高くないかもしれない。資源価格の動きが当時と今回では全く逆だからだ。新興国の多くは資源の産出国であり、それらの通貨は資源価格との連動性が強い。前回の米利上げ局面では、米国経済や世界経済の強さを背景に資源価格が上昇を続けていた。しかし、今回はかなり前から中国経済の減速などを背景に資源価格は軟化しており、とりわけ2014年夏以降は原油や鉄鉱石を中心に大幅な下落が続いてきた。新興国通貨の反発は、資源価格の反発が大前提だろう。
ところで、資源価格の下落は物価抑制要因であり、先進各国の中央銀行が物価の押し上げに苦労している理由の一つとなっている。ところが新興国の多くではこれまでの自国通貨安によって物価が上振れしており、中央銀行が利上げを余儀なくされている。米利上げによって一段の新興国通貨安が進むのか、そしてその場合に通貨防衛・インフレ抑制の観点から新興国が更なる利上げに踏み切ることができるか、大いに注目される。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。