既報のとおり、キングジムはWindows 10搭載PC「ポータブック」を発表した。同社と言えば、開けば"ものの数秒"で文字入力が可能になるデジタルメモ「ポメラ」シリーズが有名である。日々取材に駆け巡るライターの間でも高い評価を得ていたが、2013年3月発売の「DM25」以降、新モデルの噂は聞こえてこなかった。

筆者は今回、シンプルなテキストエディターとATOKを組み合わせ、単4形アルカリ電池×2本で約20時間稼働する文章作成に特化したデバイスの新モデルが登場するかと思い込んでいた。発表会に訪れてみると、そこにあるのはポメラの新モデルではなく、Windows 10搭載PCだったのである。

ポータブックを閉じた状態。電源が入っている場合やスリープ時は下のランプが点灯する

ディスプレイを開くと、折りたたんだキーボードが現れる。ちなみに稼働時もキーボードが折りたたんだ状態では反応しない

本稿では試作機をもとにポータブックを紹介したい。まずはスライドアークキーボード。両手で開くことを想定しており、開閉する際の「カチッ」とした音も小気味良い。ポメラ DM20(筆者はDM25を長期使用していない)の一部モデルにあったキーボードの端を押すと全体がたわむような感覚も小さかった。ただ、試作機のため断言できないが、左下端の[Ctrl]キーにはない違和感を[右Shift]キーや[→]キーでわずかに覚えた。

写真では片手しか添えていないが、両手でキーボードを開く

こちらが完全に開いた状態。キーボード下部にはマウスボタンが並ぶ

キーボードレイアウトは個人の好みが入るものの、少々使いにくい部分があった。キーピッチ18mmとストローク15mmを各文字キーが維持している点は非常に素晴らしいが、筆者がATOKで多用する[End]キーは右下の矢印キーと兼用。ファンクションキー類も全体的に小さい。ただ、ポメラシリーズを使ってきた方なら、さほど不満を覚えることはないだろう。

本体右背面

本体左側面

同じく慣れが必要な部分が、キーボード中央にある光学式フィンガーマウスである。一見するとThinkPadのようなスティックポインターのようだが、ポータブックのそれはポインターの表面をなぞるように操作する方式だ。また、キーボード下に並ぶボタンもクリック感が強く好みが分かれる。

試しに電車の中でも使ってみた。このあたりはポメラシリーズと異なり、膝の上でもバランスが保たれる。ディスプレイ側よりも本体側が重いので、想像以上の安定感だ。本体のコンパクトさも相まって移動中の文章入力デバイスとしてバッテリー駆動時間をのぞけば、好きなテキストエディターやIMEが選択できる分、ポメラ以上と評価しても構わないだろう。

だが、ポータブックをPCとしてみると、Wi-Fiは2.4GHz帯のみ、USBも2.0止まり。このあたりは「コストを鑑みて実装を見送った」とキングジム商品開発部の冨田正浩氏は説明していた。また、キングジム取締役開発本部長の亀田登信氏はポータブックを「携帯性と使いやすさの両立を目指したが、スペック至上主義的な製品ではない。ビジネスの未来を変えることはできないが、明日の出張は変えられる」と紹介していた。

Windows 10を搭載したポメラと捉えると、あれこれと欠点が見えてしまうのはPC/IT系ライターの悪い癖だと自戒するが、ポータブックを電子文房具として見れば、非常に野心的なデバイスである。

このような表現がマッチするのか疑問は残るが、ポータブックは"Windows 10時代のネットブック"と言えるのではないだろうか。この分野は昔から一定のニーズがあり、筆者も例に漏れず好きなジャンルである。古きDOS時代ならPalm Top PC 110、Windows 9x時代ならVAIO C1、6年前ならEee PCに代表されるネットブックを思い出す読者も少なくないだろう。

キングジム代表取締役社長の宮本彰氏は「(ポータブックが)隙間商品と言えるか微妙だが、コンセプトなどを吟味すれば今の世の中にはない製品だ。今後大きな市場になるのではと期待を持っている」と発表会で語っていた。

正直な感想を述べれば、ポメラシリーズにあったソリッドなデバイスという印象は感じられない。だが、ネットブックという視点に立てば、10万円を切るWindows 10デバイスとしては実に面白い。Windows 10の可用性という観点ではなく、Officeスイートなど今あるアプリケーションを「ただ気軽に使いたい」「ビジネスシーンに役立てたい」という、開発者のコンセプトが市場に伝われば、ポータブックが電子文具品として成功する可能性は大きいだろう。

阿久津良和(Cactus)